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「中1生が英単語をローマ字読みしないために」
  〜makeをマケと読ませないために〜

東京都立白鷗高等学校附属中学校 小川登子


1.指導者として大事にしたい考え

(1)アルファベットの「音」と「文字」の代表的なパターンを教えるだけでは、生徒がすべての文字を音声化できるようにはならない

中学1年生の英語の教科書には、冒頭に小学校英語活動との接続を図るページが用意されており、「音」と「文字」の関係について、生徒の興味・関心を高めさせるようになっています。「アルファベット26文字には名前と音があるんだよ。」と、例えばAのカードを見せて、「名前は/ei/で音は/æ/」と教えた後、リズムに乗ってæ æ æ æ/ei/!と発声させて自動化するまで繰り返させる音声指導が多くなされています。この指導はアルファベットの文字を見ただけでその音を無意識に正しく発することができるようになるために欠かせない練習であり、その後の英語学習において基盤となる力を養います。

しかし、「A」の発音には/æ/のほかに/ɑ/、/ɜ/、/ʌ/、/ə/もあります。文字と音との関係の代表的なものを1つ教えただけで、生徒はその後に触れていく英文をスラスラと正しく音声化できるようになっていくものではないということを、指導者はよく認識しておかなければいけません。

(2)入門期にこそ、音素と音節を捉える下地を作る

英語学習でいわれる、「聞いて理解する」とはどのようなことでしょうか。単に意味が分かるということではありません。それはかなりできるようになった段階で言えることです。「聞いて理解できる」とは、相手が言ったことを聞いて、情報として処理されるまでの「音韻プロセス」ができているということです。人が発話したものは「音素→音節→意味をなす言葉」という順序で処理されます。聞き手が「意味をなす言葉」として受け取ることができるようになるためには、その前段階である「音素」から「音節」へと無意識に捉える力が不可欠です。

「音素」には母音と子音があり、これらが組み合わさって「音節」となります。日本語の音節は「傘」/ka /sa/のように「子音+母音」の構造ですが、英語ではumbrellaのように母音と子音の組み合わせ方が多様です。英語のbusとbathを「バス」/ba/ +/su/とローマ字読みさせないために、発音が難しいと指摘されるth,l,rなどの音への注意だけではなく、英語のすべての音素が一つ一つ違っていることに注意を向けさせる必要があります。入門期に音素と音節に注意を向けさせる指導を丁寧にしていくことによって、文字を見て、適切な音声を出せる、すなわち「読める」ようになっていきます。

2.実践事例

(1)フォニックス指導について

アルファベット26文字の音と文字の関係のルールを学習します。本稿の始めでも述べましたが、まずはアルファベットの名前(Aの場合/ei/)を正確に聞き分け、それを再生できるようにした上で、アルファベットの文字を見ながら、その文字と音(/æ/)をつなげて、自力で読める力を養うことができます。例えば、/d/+/o/+/g/=dog、/v/+/e/+/t/=vetなどです。この文字と音のつながりを指導する際に音素の発音も指導します。例えば、/v/ は生徒にとって発音するのが難しいとされる音の1つなので、初期の段階で正しく発音できるようにさせたいものです。なぜなら、その後に教科書でvery, village, visitなどがたくさん出てきますし、生徒が将来なりたい職業の1つにもvetがあるからです。

その他、特に取り上げて指導する文字と音のルールには、likeやtimeなど語尾にあって音を出さない「サイレントe」のルールや、rainやreadなど母音が2つ並んで続くときは最初の母音を「名前読み」して2つ目は発音しないルール(「礼儀正しい母音」と呼ばれています。)などがあります。ちょうど中学1年生の教科書にたくさん出てくる単語に入っているので、生徒には自分の力で読めるようになる自信をもたせることができ、楽しんで読むようになっていきます。

中学1年生の初期はまだ英語の語いが少ないため、フォニックスのルールを一度に教えすぎると生徒には覚えることが増えていくように感じられ、かえって負担にさせてしまいます。あくまでも自力で読もうとするときの便利なルールとなるよう、教科書で扱う語いと関連させて、さりげなく取り入れることが大切です。また、その場限りだけでなく、語いが増えてきた頃や学期の初めに既習の語いと合わせて復習する機会をつくります。

(2)フラッシュカードを使った発音指導について

フラッシュカードは教科書の指導教材として市販されていますが、手作りすると生徒の実態に合わせて指導することができます。例えば、likeなどの「サイレントe」のルールをもつ単語ならば、最初の母音と語尾のeを赤色にします。また、readなど母音が2つ続く単語には、eaの箇所を赤色の文字にしたり下線を引いたりすると、フォニックスのルールと合わせてうまく発音練習をさせることができます。このとき、2つ目の母音を発音しないことを示すために、文字の上に小さく×印を書いておくなどの工夫もできます。こうした工夫を施すことで、生徒にとってはフォニックスのルールが自然と視界に入り、記憶の定着を促していくことができます。

図1 フラッシュカードの例

フラッシュカードを手作りするときにはフラッシュしやすいようにその材質と大きさにも配慮します。何枚かを束ねて一度に手に持たなければならないので、重すぎず薄すぎず、かつ、ある程度丈夫で自分の手の中にちょうど収まる大きさが好ましいです。白ボール紙(コートボール紙ともいう)が安価な上に扱いやすいのでお勧めです。タテの長さは手に持った時にときで文字が隠れないよう11〜12 cm、ヨコは長すぎない40 cmぐらいがいいでしょう。発注するときに指定のサイズを伝えて裁断してもらってください。

3.1年間の指導の流れ

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アルファベットの文字カードを見せて、文字と音が自動化するまで毎授業の始めに繰り返す。 例)Aのカードを見せてリズムに乗って「æ æ æ æ /ei/!」 教科書の語いはフラッシュカードを使い、音素に注意を払わせた発音指導をする。

教師は口の開け方や舌の位置などを生徒の前で示し、生徒にマネをさせる。モデルの示し方は大げさなくらいでちょうどいい。生徒から笑いがこぼれ、記憶定着を促すことにつながる。

発音には妥協しない。全員を起立させ、生徒一人一人の発音をチェックし、合格した生徒から着席させる。入門期だからこそ、全員ができるようにさせる。

できるようになるまで個別指導も行う。

学期末には1学期に導入した単語を発音させて復習する。

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夏休み明けは忘れていることを想定して、まず生徒に読ませてみる。

正しく読めない生徒が多かったら、1学期の指導に戻る。自動化するまで毎授業繰り返す。

学期末には2学期に導入した単語を発音させて復習する。

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学期の最初は2学期までに導入した単語のうち、フォニックスのルールの定着度を図りやすい語を選んで生徒に読ませてみる。定着度に応じて指導の軌道修正を図る。

3月には一年間に既習した語いの総復習をして、2年生に進級させる。

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