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【新企画リレーコラム】言語能力育成を考える

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第3回 「CEFRから読み解くタスクベースの言語能力発達」後編
東海大学 長沼 君主

前編の<次期学習指導要領におけるCEFRの影響>、
<CEFR/CEFR-Jの参照枠と能力記述尺度から見えてくるもの>に続く、後編となります。(前編から読まれる方は、こちらへ。)


CEFRの補遺版(Companion Volume)から見えてくるもの@:モードとマクロ機能

 言語活動や能力ごとに各レベルの記述文を尺度化したillustrative scalesは、2018年2月に公開されたCEFRの補遺版と言えるThe CEFR Companion Volume with New Descriptors(CEFR/CV)※11において大幅な見直しと拡充がされており、Pre-A1レベルの記述の追加やCレベルの記述の修正がされ、新規にMediation(媒介)の領域の尺度が開発されるなどしている。個別のタスク等の尺度に基づいたプロファイルを重視した姿勢がこうした改訂からも伺える。

 フレームワークも従来の5技能(領域)の分け方から、コミュニケーションモードに基づくReception、Production、Interactionに、新たにMediationを加えた分け方に切り口を変えて刷新された。CEFRが開発された当初はWritten Interactionへの認知が低かったことからWritingにまとめられ、SpeakingのみがSpoken ProductionとSpoken Interactionに分けられたが、今回の改訂ではWritten and Online Interactionの枠が設けられ※12、より時代の要請に沿うものとなっている。次期学習指導要領では、話すことにおいてCEFRの特徴でもある発表とやり取りを分けているが、さらには書くことにおいても同様の分け方からメールやSNSでのやり取りにもより焦点をあてて、6技能(領域)から技能バランスや能力発達をとらえる必要もあるだろう※13

 コミュニケーション活動の分類にあたっては、こうしたコミュニケーションモードからの切り口に加えて、マクロ機能として、「創造・対人言語使用(Creative, Interpersonal Language Use)」、「取引・交渉言語使用(Transactional Language Use)」、「評価・問題解決言語使用(Evaluative, Problem-solving Language Use)」の点から大きくカテゴリー分けし、表に整理した分け方も示されており、尺度を俯瞰してタスク間のバランスを取っていくうえで示唆となるであろう。例えば、受容(reception)において追加された「楽しみのための読み(Reading as a leisure activity)」は創造・対人言語使用にあたるが、これまでの読みの尺度では欠けていた※14。また、産出(Production)で加わった「持続した発話:情報提示(Sustained monologue: Giving information)」は、従来の持続した発話に関する2つの尺度の「経験描写(Describing experience)と「意見陳述(Presenting a case)」が対人・創造と評価・問題解決の言語使用であったことから、取引・交渉のマクロ機能が補われて追加されたことが分かる。

CEFRの補遺版(Companion Volume)から見えてくるものA:媒介の重要性

 今回の改訂の最も大きな変更であるMediationは、CEFRでも言及はされていたが、通訳や翻訳ととらえられがちであり、具体的な尺度もなかった。ただし、実際には通訳や翻訳だけでない多面的な媒介活動が意図されており、改訂版では上記の3つのマクロ機能に基づいて、コミュニケーションの媒介に関するMediating communication(創造・対人言語使用)、テキストとの媒介に関するMediating a text(取引・交渉言語使用)、意見形成における媒介に関するMediating concepts(評価・問題解決言語使用)の枠からフレームワークでも記述がされている※15

 通訳や翻訳はこのうちのMediating a textに含まれるが、それ以外にも従来の尺度ではWorking with textのカテゴリーで技能とは別枠とされ、やや位置づけがあいまいであったProcessing textやNote-takingの尺度が含まれる。Processing textは、聞いたり、読んだりする中で、必要な情報を抜き出して、まとめたり、チャートなどに整理する活動であり、講義や会議などでメモを取るNote-takingとともに技能をまたいだ統合的活動と言える。Mediating a textには、新たにRelaying specific information といった必要な情報の伝達をする活動や図表等に記された情報を説明するExplaining dataなどの尺度も設けられており、5領域から主な言語活動を記述する際に、ともすると抜けてしまいがちな、言語活動を支える下位技能の発達をより細かく見取るうえで役に立つ。

 次期学習指導要領では、知識・技能といった言語的技能(linguistic skills)面だけでなく、汎用的技能(generic skills)としての思考力・判断力・表現力といった資質・能力の育成も目指され、主体的で対話的な学びから深い学びへとつなげていくことも強調されている。Mediating conceptsでは、協同的な思考の形成を重視しており、グループでの協働性に関するCollaborating in a groupとグループワークの促進に関するLeading group workを分けて、それぞれで関係面での媒介(relational mediation)であるEstablishing conditions (for effective work)と認知面での媒介(cognitive ;mediation)であるDeveloping ideasにおける尺度を設けている。

 関係面での媒介にはFacilitating collaborative interaction with peersとManaging interactionの2つの尺度があり、対話的学びを考えるうえで、どのように相手の発言を引き出しつつ対話を促進し、議論に貢献するか、また、言語活動において、どのようにやり取りをしながら協働作業を円滑に進めるかを考える際の参考となる。一方、認知面での媒介にはCollaborating to construct meaningとEncouraging conceptual talkの2つの尺度が含まれ、議論や活動での対話的な学びの中で、足場を作りながら考えを形成し、整理していく過程が記述されている。こうした資質・能力を個別の言語活動(タスク)に落とし込んで、観察可能な行動として記述していくことで、より細かな見取りや具体的な思考や対話の足場がけが可能となり、自己効力を育みながら言語能力を育成していく助けとなるだろう※16



注釈 ※注は前編より連番になっています。

11)参照リンク The CEFR Companion Volume with New Descriptors(CEFR/CV) 2001年に出版されたCEFR自体の改訂ではなく、尺度を付け加える形で改訂された。
12)注7のStructured OverviewのSelf-assessment GridにもWritten Interactionの枠が示されており、簡潔な記述が見られる。
13) ただし、CEFR/CVでは6技能というとらえ方ではなく、上述したように、Mediationも加えた4つのモードによりまずは言語活動を分類している。
14) 前述したようにCEFR-Jでは物語に関する記述文があるが、CEFRではなかった。
15) フレームワークにおける記載順は異なる。
16) 今回取り上げなかったMediating communicationは、異文化的要素を含むコミュニケーションにおける媒介であり、複文化間での交流の促進や他者との人間関係に配慮したやり取りの促進に関する尺度などが含まれる。

参考文献
Heyworth, F. (2004). Why the CEF is important. In K. Morrow (Ed.). Insights from the Common European Framework. Oxford University Press (pp. 12-21).
Little D. (2011). The Common European Framework of Reference for Languages: A research agenda. Language Teaching, 44(3), 381-393.
North, B. (2014). The CEFR in Practice (English Profile Studies 4). Cambridge University Press.
投野由紀夫[編](2013).『CAN-DOリスト作成・活用 英語到達指標CEFR-Jガイドブック』 大修館書店.


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