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【連載】スピーキング指導を考える

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第1回「教師の英語力とは」(前編)


田中 茂範(ココネ言語教育研究所所長・慶應義塾大学名誉教授)


はじめに

 教師の英語力とは何か? よく英検で準1級以上とかTOEICで750点以上といった基準が教師に求められる英語力として示されることがある。しかし、これは、教師の英語力を見るにはかなり荒っぽい指標である。なぜなら、英検で準1級をとることが、どういう英語力を保証するのかが判然としないからである。昨今は、中学生で準1級をとる生徒も少なくない。このことを考えれば英検の級が教師の英語力を保証するものでないことは明らかである。同様のことがTOEICにもいえ、たとえ950点とっても、英語が使えない人が少なくないことを筆者は知っている。身近にそういう人がたくさんいるからである。

 教師の英語力は高校生や大学生の英語力とは違うはずである。教師に求められる英語力は、英語を説明するメタ言語的知識を含む。英語の善し悪しを感じ取る文体的感受性も必要である。授業を運営するには、生徒に指示を出し、活動の流れを調整し、活動についての評価やフィードバックを与える英語力が求められる。もっといえば、生徒にとっての新出単語が出た場合、その使い方などを説明できる英語力が必要である。もちろん、文法も英語表現のパターンにたくさん触れさせるような形で導入できるかどうかも教師の英語力に含まれるだろう。英文を音読することができることは当然である。音読といっても情感を込めて読む力が必要である。

教師の英語力

「英検準1級が教師に求められる英語力だ」といっても漠然としている。そこで必要なのは、「教師が何をするときの英語か」を明らかにして議論することである。どんな授業であれ、英語で授業をする際に、教師は次の3つのタスクをなんらかの形で行っているように思う。

1. 生徒の発言に英語でフィードバック(評価)を与える
2. 生徒に英語で活動をさせ、それにアドバイスを与える
3. 内容の理解と新出単語・文法の説明を英語で行う

本稿では、この3つのタスクとの関連で教師の英語力についての私見を述べてみたい。

生徒の発言に英語でフィードバックを与える:教室の雰囲気をつくる

 まず、授業でほめたり、励ましたりすることは、よい学習環境(雰囲気)をつくる上で重要である。このことは、教育学が教えるところである。生徒をほめる先生とほめない先生を比べると、生徒はほめる先生(の授業)に対して、より好感を覚えるようである。コトバが心を動かすのである。実際、ほめられたり、励まされたりすることで生徒はやる気を出すということを、教師であれば経験的に知っているはずである。

 しかし、「ほめる」といっても、Good job!――これは素晴らしいコトバであることは間違いないが――これをただ繰り返すだけでは効果は薄い。というのは、「あの先生はなんでもGood job!と言う」といった具合に受け止められる可能性があるからである。ほめたり励ましたりする行為は、教育的に見れば、評価の現れである。評価というものは、生徒が納得したときに効果を生む。そこで、状況に応じた「ほめコトバ」「激励のコトバ」を教師はレパートリーとして持っておかなければならない。以下はその例である。


ほめるコトバ・励ますコトバ
Nice work! /Great job! (Satoshi/ team A / everybody)
(You did a) good/ great job /You (all) did very well.
That's the best today / this week/ this term/ this year.
You're getting much better.
Keep going. / Don't give up/ You can do it!
That's a good idea but not quite what I was looking for.
Have a guess. / If you don't know, just guess.


 評価としてのほめ言葉は、具体的に個人やチームに向けられたとき、心に届きやすい。そこで、Good job!というだけでなく、Good job, Satoshi.とかNice work, team A. のように、評価の差し向け先を具体的にするほうがよい。全員に向けたときは、Great job, everybody.となるだろう。同じGreat job!でも、You did a great job, Satoshi. となると表現に変化が生まれる。英語教師はこうしたコトバの効果を理解した上で使えるようでなければならない。 "Positivity spreads." が学習環境においては必要だが、それに大きく寄与するのが教師のコトバだからである。

前編はここまでです。後編に続きます。

 

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