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【連載】スピーキング指導を考える

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第3回 Speaking力を鍛えるための方法:Navigator in Speaking(前編)


田中 茂範(ココネ言語教育研究所所長・慶應義塾大学名誉教授)


はじめに

 新学習指導要領が発表され、英語教育の最大の関心は、「まとまりのある内容のことを英語で自然に話す力」の養成をどのようにして行えばよいか、に集約されつつある。「4技能型」の外部試験でも「話す力」が求められるということが、その関心を高める要因になっている。

 お決まりのやりとり程度であればなんとかなるが、何かをちゃんと英語で説明するという場面に直面すると、「そんなの無理」と課題を放棄してしまう学習者がいることは容易に想像ができる。そして、先生方もまとまった内容のことを英語で話せるように指導することは、難しい課題であると考えている。日本語であれば造作ないことでも、英語で何かを表現するとなると、慌ててしまい、何をどう表現してよいかわからなくなるからである。しかし、話し方のコツを知っていたらどうであろうか。ここでは、話し方の指導としてNavigator in Speaking(NIS)というコツ(方法)を紹介する。

ストックとフロー

 英語の「駒」がなければ何も話すことができないことは、自明である。そこで、単語や熟語や文法を懸命に覚えようとする。これは、ストック(蓄積)としての英語の学習である。しかし、これだけでは、折角のストックも使えないということが起こる。ここで注目したいのは、英語表現の流れ(フロー)である。あることを言語で表現するやり方は、人々の行動のしかたのように、予測可能なものが多い。例えば、交渉場面では、ある提案が行われ、それが合意されれば交渉は成立するが、提案に対して対立点があれば、分析・比較・評価などの相互調整が図られ、再提案が行われ、そして合意を得れば、交渉は成立するという流れになる。これは「行動のスクリプト」と呼ばれるもので、人は内在化したスクリプトによって行動していることが多い。何かを話す話し方にも、知らず知らずのうちに身に付けた「話し方のスクリプト」というものがあるように思う。NISはこうした発想の中で生まれたアイデアである。

Navigator in Speaking(NIS)

 まず、最近の車にはナビゲーション・システムというものが装備されている。目的地を設定すれば、そこに誘導してくれるものだ。Navigator in Speaking(NIS)という表現も「話の流れを誘導する何か」という意味で使いたい。近い表現に「テンプレート」という言い方もあるが、テンプレートは、表現のための「型」を示すものであり、その型の中に表現をはめていくという意味合いが強い。一方、ここでいうナビゲーターは、表現行為を緩やかに誘導するものであり、テンプレートより動的で、情報配列の順序などの自由度が高い。

 日常会話においても、一人でまとまった内容のことを話す場面が多々ある。何であるかを説明する、意見を述べる、起こったことを時系列に沿って述べるといった場面を考えてみればよい。そして、自覚しているかどうかは別として、話し方のスクリプト(ナビゲーター)のようなものを身に付け、それを使って表現していることが多い。NISは、そういう無意識に身に付けている話し方を明示化し、それを学習・指導の対象にするというものである。以下、具体例をいくつか見てみたい。

例1:人物描写

 例えば、ある人物の描写をするというタスクがあるとする。教師でも友人でも家族でも誰かを頭に思い浮かべてその人について述べるようにと、言われたとする。日本語であれば臨機応変に人物の描写をするだろうが、英語になると、戸惑ってしまう。そこで、以下のように、NISを明示化する。

 あなたの友人のジェームスさんについてWhat is James like?と質問された場合、NISに従って、例えば、次のように人物描写を行うだろう。

 もちろん、ここでのタスクを行うには、「外見(tall, handsome)」「人柄(friendly, sociable, outgoing, considerate)」を描写したり、「行動傾向」を述べたり(He is the kind of person who …)、そして自己評価をしたりする際に、知っている単語や表現を使うという場合と、知らない単語や表現を新たに補充するという場合がある。そして、後者の場合、すなわちNISが導くフローの中で、必要となる単語や表現を学べば、それは有機的な単語学習、表現学習になる可能性がある。

前編はここまでです。後編では、引き続きNavigator in Speakingについて具体例をみていきます。

 

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