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公立小学校における外国語について―移行期1年目に思うこと―

青山学院大学 アレン玉井光江


 2017年告示の新しい学習指導要領により、小学校高学年には教科としての外国語、そして中学年には領域としての外国語活動が導入され、2020年度より完全実施されることになりました。この学習指導要領の移行期間である2018年度、文部科学省は『Let's Try』(中学年用)と『We Can!』(高学年)を全国の小学校に配布しましたが、2018年5月に行われた調査によると、2018年度は全国の3割程度、そして2019年度でも4割程度の小学校のみが先行実施する予定です。残りの6割程度の小学校では十分な準備のないまま2020年度を迎えることになりますが、特に高学年の外国語指導ができるのだろうかと不安を感じます。このコラムでは、私自身が1年間公立小学校で『We Can!』を使用しながら高学年の指導にあたり、最も注意した「読み書き指導」について書いてみたいと思います。現場ではこの指導をどのように行えばよいのか不安に思われている先生が多くいらっしゃいます。またその指導法を知らないからか、安易にペンマンシップに流され、児童が黙々と写字をしている授業を見ることが多くありました。

 今回の学習指導要領の改訂にあたり、文部科学省はCEFR(Common European Framework of Reference for Languages ヨーロッパ言語共通参照枠)を参照し、小学校から高校における英語能力の到達地点を明らかにしました。これからの外国語能力は4技能5領域にわたり「外国語を使って何ができるか」という観点から評価され、学習者が外国語を使えるようになることが望まれています。読み書き指導においても、将来にわたり使えるリタラシーを獲得するために小学校段階で何をするべきか考えていきましょう。

1.読むことについて

 新しい学習指導要領によれば、読むことの目標は次のように設定されています。

 まず、アルファベットの文字を字形として認識し、さらにその名前を理解、発音できることが(ア)の目標となっています。ですので、ABC・abcを「エイ、ビー、シー」と、見て理解し、言えるようになることが最初の目標です。

 次に(イ)の目標はdog, like, you, やDo you like soccer?といったよく出てくる単語や表現が音読できて意味がわかる力をつけるということでしょう。しかし、(イ)の目標については次のような説明が加えられています。「英語の文字には、名称と音がある。児童が語句や表現の意味が分かるようになるためには、当然のことながらその語句や表現を発音する必要があり、文字の音の読み方は、そのための手掛かりとなる。したがって、ここで示されている目標に関して指導する際には、児童の学習の段階に応じて、語の中で用いられる場合の文字が示す音の読み方を指導することとする」(学習指導要領解説 外国語活動・外国語編p. 78)。つまり、アルファベットの文字に関しては、文字を見て名前だけではなく音も理解でき、単語が読めるように指導することが望まれているわけです。

 (イ)の目標を読み方の指導法から考えると、2つの指導法が暗示されていると思います。1つは、音声で親しんだ後、全体として音と単語を合わせて理解する方法(whole word method)です。例えばdogと書いてあるとそれが「ドッグ //」という音で「犬」を意味すると理解し、丸覚えをする方法です。中学校以降、単語を覚える際に使われる一般的な方法です。もう1つの方法は、前述したように文字と音との関係を知り、単語を解読(decode)する方法です。こちらではdog をそれぞれの文字に対応する音/d/ // //と理解し、「ドッグ」と音声化(decode)し、理解する方法です。

 私自身は理論研究や実践の結果を分析し、初等英語教育のリタラシー指導において最も大切なのは、この文字と音の関係(alphabetic principle)を教えることだと思い、実践しています。文字に対応する音(例:bは/b/)を丁寧に教え、知っている単語だけではなく初めての単語も音読できるように指導しています。また、母語獲得の過程と同様に、これらのリテラシ―指導の際には音声言語の発達が重要であることも付け加えておきます(詳しくはこちら)。

2.書くことについて

 次に「書くこと」については、下記のような目標が設定されています。

 (ア)の目標で、文字が書けるようになることが望まれています。ここでは、児童が文字の名前を認識して書いているかどうかが重要なポイントで、音がない写字活動は、あまり意味がないと思います。指導者が「//(ビー)」と言ったら、すぐにBまたはbが書ける力を育てることが大切です。この力が育っていれば、「語句や表現を書き写すこと」ができ、また意味をもってくると思います。

 (イ)の目標では「例文を参考に書くことができる」とあり、「写す」ではなく「書く」とされていることに注目します。実際は提示されている文を参考に、自分のことに置き換えて単語を書く(写す)作業なので、単語の綴りを覚えたり、文法的な知識をもとに文を組み立てたりすることは望まれていません。

 ただ、ここでは、シンプルな写字作業ではなく、学習者が自分でどのような単語を書いているのか理解して書いていることがカギになります。つまり I likeまで書かれている文章に dogsと自分の好きな動物を書いている児童は、dogs= /d/ // ///z/と、それぞれの文字に対応する音を想起しながら、それを文字化していることが大切です。

 したがって「読む」「書く」どちらの技能にも文字と音の関係を理解したうえで読んで、書くということが大きなポイントになるでしょう。Garton & Pratt (1998)は、この重要性について「The discovery of grapheme-phoneme correspondences and the subsequent learning of these correspondences is at the very heart of learning to write and to read」(p. 173)と強調しています。

 英語は音と文字との関係が複雑な言語なので、音と文字の基本的なルールを覚えても、例外がたくさんあり、読み書きの際にはスペリングをしっかり覚えなくてはいけません。

 しかし、文字と音の関係を知ることでその学習を効果的に進めることができます。

3.まとめ

 以上に述べたようなリタラシー指導は、毎回8分程度の活動にして、システマチックに教え続けることが重要で、私はそのように指導しています。中学年『Let's Try』では、3年生Unit6で小文字、そして4年生もUnit6で小文字を学習することになっています。45分の授業を4コマすると考えると180分ですが、それを8分ずつに分けて行えば22回できます。4回の授業としてではなく、毎回8分の活動としてリタラシー指導をするほうが、よほど効果があります。高学年では『We Can!』を使いながら、2回に1度リタラシー活動を取り入れるように指導されています。ここでも、できれば時間は半分にしてでも毎回入れていく方法を推奨します。読み書きは個人差が大きく出てくる技能です。丁寧に時間をかけてシステマチックに指導する必要があります。

 英語は言葉を使って学習を進める他教科とは異なり、言葉自体を学習していきます。その場合、「思考力、判断力、表現力」と呼ばれる力を伸ばそうとしても、まずはその基礎となる知識をもっておかなければなりません。アクティブラーニングが主流である現在の教育現場において、知識の伝達や丸暗記は極力避ける傾向があり、仲間と一緒に考えて、解決法を自ら探索する方法が好まれます。しかし、「思考力・判断力・表現力」など高次のスキルを使うには知識の基礎を十分に確立させておく必要があり、これらの力は知識の蓄積に依存しています(Christodoulou, 2014)。 小学校段階であまりにこのような高次の能力の発達を意識しすぎると、肝心の基礎的知識の定着に十分な時間をかける機会を失ってしまい、それ以降の学習を困難にする危険性があるのではと考えます。特にリタラシーについては、基礎的な力をつけていくことが重要で、その最たるものが音と文字との学習です。九九を覚えるのと同様に、これらは覚えていくしかなく、そうしなければ前に進めません。小学校の段階で文字と音との関係を理解することは、それ以降の英語学習の大切な基礎になります。現場でも今一度この点を重視したリタラシー指導を行われるようにと願います。


参考文献

文部科学省 小学校学習指導要領(平成29年度告示)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/ __icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1413522_001.pdf

文部科学省 小学校学習指導要領(平成29年度告示)解説 外国語活動・外国語編
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/ __icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_011.pdf

Christodoulou, D. (2014). Seven Myths about Education. Routledge.

Garton, A., & Pratt, C. (1998). Learning to be literate: The Development of Spoken and Written Language. 2nd Edition. Wiley-Blackwell.

 

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