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第2回 研究会レポート
詳細:「上智大学・ベネッセ応用言語学シンポジウム2011
新課程直前 日本の中学校英語を考える - 小中高をつなげる視点から-」



第1部 研究・実践報告
「小学校外国語活動と中学校英語をいかにつなげるか - 中1生・調査速報と実践事例から見えてくるもの」


発表の概要

◆ 問題提起(吉田 研作 上智大学)

◆ 「小・中学校の英語教育に関する調査(中1生対象)」結果報告

*生徒本人の回答結果より(Benesse教育研究開発センター 沓澤 糸)

(1)

小学校の英語活動について

楽しく、英語の音に慣れ親しめたが、わかりやすさに課題もある。やっておきたかったことは単語や文の「読み書き」。
(2)

中学校の英語の授業について

学校の英語は好きで、授業もまだわかる。内発的な動機づけも強く、もっと話したい。

*保護者の回答結果より(東京外国語大学 長沼君主)

(1)

成績層による違い

成績上位者のほうが、中学校生活への適応・自律的な学習のコントロールができている。
(2)

家庭のサポートによる違い

英語学習の目的を中長期的にとらえている保護者は、家庭でのサポートも厚い。また、それは子どもの志向性にも影響している。

*まとめ・課題提起(上智大学 吉田研作)

(1)

中1・10月以降に大切なこと

興味・関心や理解が落ちる中1後半から中2にかけて、指導の工夫などが重要になる。
(2)

小学校の授業に求められること

授業が楽しく、興味を持たせられるかが課題である。
(3)

小学校での教師の役割

担任とALTのチームティーチングを効果的に行うこと、ALTを取り巻く問題の解決が求められる。
(4)

文字指導を連携のキーにした小中連携

小学生の発達に即した文字へのニーズに応えつつ、中学校にうまくつなげることが重要になる。

◆「小学校で英語の音に慣れ親しんだ中1生への指導」実践事例(栃木県足利市立山辺中学校 中池さな恵)

(1)

足利市における小中連携への取組み

小中全関係者の合同研究と授業実践の積み重ねによりスムーズな連携を行う。

(2)

小学校で英語の音に慣れ親しんだ中1生の実態

中学校英語は難しいと感じているが、英語への抵抗感も少なく、文字による学びの意欲が高い。
(3)

平成23年6月13日の研究授業内容の紹介

基礎基本の徹底と、生徒が“意味を持って英語を使う”コミュニケーション活動を行う。
(4)

1学期後半以降の取組み

「スピーチ」「発展的な会話」「ALTへのインタビュー」などの“英語を使う”活動への積極的な取組みと、小さな“できる”の積み重ねにより学習意欲を醸成する。
(5)

今後の課題

小学校で育まれた英語力の発展を大切にしながら、高校へつなげる。

問題提起 

(吉田 研作 上智大学)

今日のテーマは「中学校の英語教育をこれからどうすればよいか」です。昨年度から全国の小学校で外国語活動が必修としてスタートし、来年の4月には、小学校で英語に触れた子どもたちが一斉に中学校に進学します。小学校の外国語活動で子どもたちがやってきたことを中学校の英語教育でどのように引き継ぎ、発展させていけばいいのか、そこにはさまざまな問題が横たわっています。

まず、このシンポジウムのためにベネッセコーポレーションと一緒に実施したアンケート調査の結果を紹介します。

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「小・中学校の英語教育に関する調査(中1生対象)」結果報告

生徒本人の回答結果より

(Benesse教育研究開発センター 沓澤 糸)

はじめに本調査の概要です。実施時期は2011年10月初め、対象は国私立と公立中高一貫校を除いた全国の公立中学校に通う1年生です。母親がインターネット調査のモニターになっている家庭から抽出し、男女ほぼ同数で約2,700人から回答を得ました。本調査は、小学校で外国語活動(以降「英語活動」)を経験した子どもたちが、中学校にあがって英語の授業を受け、どんなことを感じているかを子ども自身に聞いた意識調査です。母親の付き添いのものとでインターネットで子ども自身が回答しました。回答者の属性データについてはここでは詳しくは述べませんが、母親の属性として専業主婦の比率が高くなっています。それ以外は公的に出されている国のデータなどと比べても極端な違いはみられませんでした。

(1)小学校の英語活動について
楽しく、英語の音に慣れ親しめたが、わかりやすさに課題もある。やっておきたかったことは単語や文の「読み書き」。

まず、小学校の英語活動に関して聞いたところ、6年生のときに「英語活動が好きだった」と答えている子どもが全体の6割強を占めています。理由は「授業が楽しかったから」がその4分の3を占める結果になりました。このことから、子どもたちが小学校の英語活動を好意的にとらえていることがわかります。ただ、「授業がわかりやすかったから」と答えた子どもは2割になっており、この回答の中に課題も見え隠れしているようです。

次に、「あまり好きではなかった」という子どもにその理由をたずねたところ、半数以上が「もともと興味がなかった」と答えました。「授業がつまらなかったから」「難しかったから」も、それぞれ、3割、2割という結果になっています。この答えは、今行われている授業の内容が、子どもの発達段階に合っているのかどうか、また指導方法という観点では教員の研修などについても課題があるのではないかということを示唆しているようです。

「小学校の英語活動で身に付いたと思うこと」という質問に対しては、「英語を聞くことに慣れた」「英語の音やリズムに慣れた」「外国の人と接することに慣れた」の3つが上位を占めました。これは学習指導要領で小学校の外国語活動が目指す目標とぴったり一致する結果になっています。

「(小学校でやったことが)中学校で役立ったと思うもの」という質問に対しては、「アルファベットを書くこと」「アルファベットを読むこと」という答えが上位を占めました。「英語ノート」ではアルファベットは6年生で触れる程度しか扱っていないのですが、そこで触れたことが中学校に入って助けになったと子どもたちが感じています。3番目に多かった回答は「英語での簡単な会話」です。これは小学校英語で大事にしている部分です。

次に「小学校卒業までにやっておきたかったこと」という質問です。2位の「英語での簡単な会話」以外は、1位が「英単語を書くこと」、3位が「英単語を読むこと」、4位が「英語の文を書くこと」というように、上位に来ているのは「書くこと、読むこと」に関するものです。「英単語」や「英語の文」を書くことへのニーズが非常に高く表れています。逆にいえば、これらは中学校の英語教育に期待していることの裏返しともいえるのではないかと思います。

(2)中学校の英語の授業について
学校の英語は好きで、授業もまだわかる。内発的な動機づけも強く、もっと話したい。

次に、中学校に入ってからの英語教育についての結果を報告します。「学校で学ぶ英語は好きですか」に対しては、「とてもそう思う」「そう思う」を合わせると6割弱になります。また、「授業をどれくらい理解しているか」に対して、「ほとんどわかっている」「授業の70%ぐらいはわかっている」と答えた子どもが全体の3分の2程度になっています。この時点では少なくとも理解度はまずまずであるといえると思います。

中学校の授業に対して、1年生の子どもたちはネガティブにとらえているのかポジティブにとらえているのかを聞いてみました。「定期テストがあること」「文法(文のルール)を覚えなくてはいけないこと」など、一般には必ず「苦手」の理由の上位にあげられるものが、この調査では「良い」「まあ良い」を合わせると6、7割をこえました。これは、「必要である」という認識を子ども自身も持っているからかもしれません。「また、授業中に英語を話す時間が少ないこと」に対して「良くない」「あまり良くないが」が合計で65%、「ALTの授業が少なくなったこと」についてもやはり65%ぐらいが「よくない」「あまりよくない」と回答しています。子どもたちは「もっと英語を話したい」と思っているようです。

中学生に学習動機をたずねますと、たいていの調査では「テストでいい点を取りたい」が上位に来るのですが、本調査では2位に「英語ができるようになるのがうれしい」、つづいて「英語はこれからの国際社会で必要になると思う」があげられていました。さらに、「視野が広がるから」「英語が好きだから」といったような内発的な動機づけの部分も高く出ているのは特筆すべき点かと思います。

※調査データは、「小・中学校の英語教育に関する調査・速報版」をご覧ください。

https://berd.benesse.jp//berd/center/open/report/syochu_eigo/2011/soku/index.html

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保護者の回答結果より

(東京外国語大学 長沼君主)

(1)成績層による違い
成績上位者のほうが、中学校生活への適応・自律的な学習のコントロールができている。

保護者調査では、主に保護者の態度と保護者からみた子どもの様子についてたずねています。まず、子どもが「中学校生活に適応しているか」について、成績との関わりでみてみました。成績は「上位」「中上位」「中位」「中下位・下位」の4段階に分けています。それぞれの成績層に600〜700名程度と、ほぼ均等に分散しました。「授業の内容は理解できている」「宿題やテスト勉強は自分で計画的に進められている」といった、英語以外の教科でも学習面での適応が高く、自律的に学習をコントロールしていくことは、やはり成績が上位の生徒のほうが高く出ています。

同様に「英語が好きかどうか」を「とても好き」から「全く好きではない」までの4段階に分けて聞きました。すると、自律的に学習する態度が身に付いている子どもほど、英語が好きと答えています。全般的に学習に適応感を感じている子どものほうが、英語の成績も高い傾向にあるようです。

(2)家庭のサポートによる違い
英語学習の目的を中長期的にとらえている保護者は、家庭でのサポートも厚い。また、それは子どもの志向性にも影響している。

家庭でのサポートについて聞いたところ、成績が上位の子どもの親ほど「家庭でサポートしなければならない」と答える割合が高くなっています。また、子どもに学校の授業以外で英語学習させる場合の目的についても聞いています。ここでは「英語に抵抗感を持たずに、好きになればいい」「会話・コミュニケーションなど、社会生活に役立つ英語を身につけてほしい」「英語の読み書きなど、成績や進学に役立つ英語を身につけてほしい」「学校以外で、特に英語を習わせたいと思わない」という4つの選択肢が用意されていますが、「社会生活に役立つ英語を身につけてほしい」と思っている親が、成績上位の子どもの親には多いという結果になっています。逆に「学校以外で習わせたいとは思わない」という回答は、成績上位層では非常に少ないことがわかりました。「役立つ英語を身につけてほしい」と願う親が、いろいろなサポートをしているといえると思います。

この調査では子どもに対して「英語を勉強しているのはなぜか」という理由についてもたずねています。それらを分析すると、5つの動機づけに分けることができます。1番目が「外国の人と友達になりたい」「コミュニケーションを取りたい」などの友好・コミュニケーション動機、2番目が「英語が好き」「勉強そのものがおもしろい」などの内発的動機、3番目が「親が励ましてくれる」「先生が好き」などの対人的動機、4番目が「テストでいい点を取りたい」「進学したい」などの外発的・道具的動機、そして最後に「国際社会で必要になる」「視野が広がる」などの国際的・職業的動機です。子どもが持っているこの5つの動機づけの型と親の志向とのマッチングが強いことがわかります。たとえば、成績とか進学などのためという外発的動機づけを持っている子どもの親は、成績・進学に役立つ英語を身につけてほしい、と望んでいる割合が高い。一方、「社会で役立つ英語を身につけてほしい」と望んでいる親の子どもは、友好・コミュニケーション動機や、国際志向が高くなっています。そして、「学校以外に習わせたくない」という親の子どもの動機づけは全体的に非常に低くなっていて、やはり親の無関心は子どもの無関心を呼んでいるように思えます。
子どもの成績と動機づけの相関をみてみると、成績上位の層では内発的動機づけが高く、逆に下位の層では内発的動機づけは低い。好きとか楽しいなどの感覚を持っている子どもほど成績が高くて、そうでない子どもほど低いという傾向がみえてきます。

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まとめ・課題提起

(上智大学 吉田研作)

どうもありがとうございました。保護者の持っている意識が、子どもの英語の好き嫌いや成績などと高い相関関係にあることがわかる興味深い結果になったと思います。最後に私なりに感じたことを少し付け加えさせていただきたいと思います。

(1)中1・10月以降に大切なこと
興味・関心や理解が落ちる中1後半から中2にかけて、指導の工夫などが重要になる。

このデータを見ると、中学1年生の10月頃はまだ子どもたちは英語に興味もあるし、授業もまあまあ理解できているという結果になっていますが、文部科学省の調査などでは1年が終わる頃には学年当初と比べて、興味・関心は10%ほど減ります。さらに「理解できているか」という項目については55%前後に落ちているんですね。まだこの段階では小学校でやってきたものがベースとなって、比較的理解しやすい時期だと思うのですが、これから徐々に大変になってくるのだろうと思います。さらに中学2年生の10月頃になりますと、6割から7割の子どもが英語は嫌い、わからない、苦手だ、という意識に変わってしまいます。ですから、中学1年生の後半から2年生にかけて、文法的に大事な、基本的な部分がたくさん入ってくる時期の教え方は非常に大切になってくると思います。

(2)小学校の授業に求められること
授業が楽しく、興味を持たせられるかが課題である。

調査データの中におよそ3分の2の生徒が小学校6年生のときに「英語が好きだった」と答えているという紹介がありましたが、その理由をたずねたときに「授業そのものが楽しい」という回答が一番多いというのは、教師の役割が大きいと思います。一方で小学校6年生のときに「英語が好きではなかった」と答えている生徒の半数以上が、「もともと興味がなかった」と答えているのですが、次に多いのが「授業がつまらなかったから」です。これには、1つには教材の問題があると思います。来年度から「英語ノート」も改訂されますが、アクティビティのやり方などに関しては相当な修正が加えられていますし、デジタル教材そのものがアクティビティで使えるような形に改良されていますので、この「授業がつまらない」という理由がテキストと関わりがあるとすれば、少しは解消できるのではないかと思っています。

(3)小学校での教師の役割
担任とALTのチームティーチングを効果的に行うこと、ALTを取り巻く問題の解決が求められる。

ただ、テキストや教材だけではどうにもならない。やはり教師の果たす役割は大きいのです。授業に関する課題の1つは、チームティーチング(TT)だと思います。残念ながらALTを確保するのは難しい状況にあり、また必ずしもいいALTばかりではない。業者に委託してしまうと、学校側は何もいえないという問題もあります。また、ALTに頼っている部分が大きいにもかかわらず、彼らは蚊帳の外という状況があると思います。この点に関しては、文部科学省、教育委員会、大学関係者なども交えて、派遣業者の人たちとの協議の場のようなものを作っていく必要があると思います。

(4)文字指導を連携のキーにした小中連携
小学生の発達に即した文字へのニーズに応えつつ、中学校にうまくつなげることが重要になる。

最後に、「中学校で役立ったと思うもの」あるいは「小学校でやっておきたかったもの」という2つの項目の回答に、どちらも「読む」「書く」がかなり入っていますね。
小学校の英語活動では「読む」「書く」を体系的に教えることは目的にしていません。しかし、5,6年生になると、知的発達がある程度のところまで来ていますので、音声重視でやっていても、それを定着させる上でもどうしても文字の教育が必要になってきます。音だけで我慢しなさいというのは無理なんですね。来年度から改訂版が配布される英語活動の教材では、現状では6年生から入れているアルファベットを5年生から入れるという変更がなされています。そのあたりが小中連携の1つの柱として、重視されなければならないと思います。ただし、知識教育に偏って英語嫌いを作ってしまってはいけない。そのつながりをどうスムーズに行えるかが非常に大きな課題だろうと思います。

小中の先生がお互いに話し合って、小学校でやったことを中学校でうまくフォローしていかないといけないですね。今までは小学校は音声、中学校に入ると知識教育という単純な分け方があったように思いますが、今回の調査結果をみていると、どうもそれだけではなさそうです。小学校でも知識は必要であり、スキルも必要。それを小学校・中学校それぞれでどう組み込んでいくかが問題ですね。

この後、小中連携が非常にうまくいっている栃木県足利市のケースをご紹介したいと思います。今日お話しいただく中池先生は中学校の先生で、6月に公開授業をしていらしたときに、とてもいい授業だったので、今日お願いして来ていただきました。

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「小学校で英語の音に慣れ親しんだ中1生への指導」実践事例

(栃木県足利市立山辺中学校 中池さな恵)

(1)足利市における小中連携への取組み
小中全関係者の合同研究と授業実践の積み重ねによりスムーズな連携を行う。

足利市における小中連携への取組みについて概要をご紹介し、具体的な指導内容について、留意点、さらに今後の課題について述べたいと思います。

①会話学習の取組みの経緯
平成15年に「足利英会話教育特区」となり、17年に全小学校22校で英会話学習が始まりました。翌18年には小学校1・2年生が生活科から10時間、3年生から6年生が総合的な学習の時間から35時間を使って実施し、平成19年度からは全学年で5時間ずつ時間を増加して朝学習の時間や英語を用いた児童集会などを実施することにより、英会話の日常化を図るようになりました。平成21年には「教育課程特例校」に指定されました。

②英会話学習カリキュラム
「小学校英会話学習指導計画」という冊子を平成17年に配布しました。全授業を担任教師とALT、EAA (English Activity Assistant、英語活動協力員)とのTTで実施しています。EAAが1年生から3年生、ALTが4年生から6年生を担当。スーパーバイザーによる指導と支援を行っているほか、ALTおよびEAAへの研修会が年2回ずつあります。さらには英会話担当者会議、小中合同の英語教育研究会もそれぞれ年2回行われ、吉田研作先生に授業前後にご指導いただくことで指導力の向上に努めています。なお、ALTは中学校全校に配置されており、これが足利市の特色の1つです。

③英会話学習の流れ
1、イントロダクション5分。2、前時の復習5分。3、ティーチャーズ・トーク5分。4、新文型の定着(練習)7分。5、アクティビティ18分。6、レビューとまとめ5分となっています。
「ティーチャーズ・トーク」のコーナーではでは担任教師とALTが英語による2、3分程度の会話と演技により本時の新出表現を提示し、それを子どもたちに推測させます。「ティーチャーズ・トーク」終了後は、担任教師と子どもたちとのインタラクションで内容の確認を行います。(「ティーチャーズ・トーク」の様子を映したビデオが入る)

④小中学校連携の取組み
小中合同の英語教育研究会を年2回実施しています。同じ地域の小学校と中学校を選び、春と秋に研究授業を行い、その後で吉田先生からのご指導をいただいています。クラスルーム・イングリッシュは小中で共通のものを使用しています。留意点としては子どもを誉める、励ます言葉にいろいろな表現を使うとともに、同じ表現でも発声の仕方によって伝わるものが違ってくることなどを小学校の先生方に留意し活用してもらっています。「ティーチャーズ・トーク」も小中同じ形式で実施しています。これらにより、小6から中1へのスムーズな接続ができるように心がけています。

(2)小学校で英語の音に慣れ親しんだ中1生の実態
中学校英語は難しいと感じているが、英語への抵抗感も少なく、文字による学びの意欲が高い。

まず私自身が小学校の英語の授業を参観して感じたことからお話しします。参観する前は小学校英語の授業はゲームや歌が主流だ、ぐらいにしか思っていませんでした。ところが、実際は中学2年生で習うような表現、たとえば“Which do you like better, A or B? ”“ I like A better. ”などもパタン・プラクティスによって覚え、ALTの発音を真似た英語らしい発音で意欲的に会話に取組んでいました。またALTは使用する表現を黒板に示しており、これによって児童は文字を認識していました。それが中学校での英語学習への抵抗感を減らし、意欲につなげることができるのではないかと思いました。参観する前は小学校英語の授業内容をよく知らなかったため、生徒の英語力に対して過少評価をしてしまっていたのですが、今まで私が中学校で教えてきたことは小学校の単なる復習となり、時間の無駄になっていた部分もあるのではないかと思いました。小学校英語からの発展という視点で、中学校の英語の授業を展開すべきであると反省しました。

次に小学校で英語を経験した生徒の特徴です。「音に慣れている」「まとまった音に臆さない」「英会話の活動に意欲的」「簡単な表現を暗記して使うことへの抵抗感が少ない」。私が現在担任しているクラスの生徒に11月上旬、アンケートを取ってみたところ「中学校で習う新しい表現について、聞いたり、英文を見たりしたことがある」という生徒が9割以上いました。小学校で触れた内容が、何らかの形で生徒の記憶に残っているものと考えられます。小学校英語には、中学校で習う表現を使っての会話や作文に対する抵抗感を少なくする効果が期待できると思いました。

アンケートの中で、確かにほとんどの生徒は中学校の英語は難しいと回答しています。しかし一方で生徒の9割近くが「読み書きを習って、さらにやる気になった」「大変だけど勉強になる」との肯定的な回答もしています。また、読み書きが加わったことによって学習したことが定着するというように、中学校での英語を肯定的にとらえている生徒もいます。

(3)平成23年6月13日の研究授業内容の紹介
基礎基本の徹底と、生徒が“意味を持って英語を使う”コミュニケーション活動を行う。

次に6月13日に行った研究授業について報告します。研究授業でポイントとしたことは次のとおりです。「小学校の英語との継続性、適切なインプット、音プラス意味、新しいことを知る」を踏まえて、小学校で習ったことの使用場面を設定して定着させる。会話をするときの3つのポイントなどを意識させる。文字でなく、絵を使って単語の意味を理解させる。「ティーチャーズ・トーク」でキーセンテンスを紹介する。ゲームやインタビューで楽しく活動しながら最後に書く活動も取り入れ、定着を図る。称賛の言葉に“Very good.”“Good job.”“Excellent.” などバリエーションを持たせたり、抑揚で変化を持たせるなどしてしっかり生徒に伝える。全員が問答する形式とし、必ず全員に参加させる。教科書の題材との関連を考え、トンパ文字(*1)に関するクイズを取り入れる。トンパ文字から中国の文化、言語への興味、そして多文化理解へと発展させるため最後に中国語のクイズを入れる。答えは次回に残し、余韻を残す。(授業のポイントとなる場面のDVD放映)

この授業について吉田先生からいただいた講評をご紹介します。まず、小中連携の成果として良かった点としては、「効果的な子どもの英語活用場面を意図的に設定できた」「効果的なチームティーチングを行うことができた」「T1が適切な場面で日本語を使用していた」などをあげていただきました。また、小中連携のポイントとして「小学校では適切なインプット、中学校では適切なインテイクを行い、英語力を育成する。小学校で習った英語を中学校で実際にコミュニケーション活動を通して身につけていくことが必要。中学校ではどのような場面で使用するかが鍵となる」というコメントをいただきました。

成果については「ゲーム、インタビュー、ALTの教え方などを通して、生徒の興味、関心を高めることができた」、「ALTと協力して良い形でのチームティーチングができた」、「3つのポイント<Eye Contact 、Nod 、Smile>を意識しながら会話させることができた」、「クラスルーム・イングリッシュを使用すべき場面で使用することができた」、「ゲームやインタビューでキーセンテンスの使用場面を設定し、生徒はキーセンテンスを使って楽しく活動していた。また、書く活動でキーセンテンスの定着を図ることができた」と考えています。

課題については「最初のゲームから次のインタビュー活動で使う表現をもう少し長い会話の中で使用させるなど発展的なものにする」、「英語を使用する場面設定の工夫を行う」、「JTE(つまり私ですが)の日本語はもう少しゆっくりわかりやすく、英語は正確さを失わず自然なスピードで話す」、「クラスルーム・イングリッシュを増やす」、「インタビュー活動などの結果を使って生徒が意欲的に書く活動に取組み、キーセンテンスの定着を図ることができる効果的な活動、ワークシートづくりを行う」などがあげられます。

(4)1学期後半以降の取組み
「スピーチ」「発展的な会話」「ALTへのインタビュー」などの“英語を使う”活動への積極的な取組みと、小さな“できる”の積み重ねにより学習意欲を醸成する。

夏休みの宿題としてスピーチ原稿を書かせ、全員に提出させました。教科書の例をもとに作ったテンプレートを示し、それを真似て作ってもいいこととしました。発表は全員が行いました。発表するときの留意点として目線、原稿の位置、声の大きさ、抑揚などについて説明し、できるだけ暗記したり、ジェスチャーをつけて発表したりするとポイントが加算される旨を話しました。
スピーチ原稿の作成と発表を終えて、生徒からは英作文を書くことの難しさや、発表の際に緊張したこと、発声やジェスチャーの工夫不足の反省点があがりました。一方で、書くことへの興味が高まり、やり遂げた達成感が感じられたこともわかりました。

次に発展的な会話練習について紹介します。教科書の各課の最後にUSE ITというまとめのページがあります。ペアでの会話練習のときにUSE ITを使って会話練習したものを発表させています。最初に“Hello.”などから始め、今まで習った表現を取り入れ、会話を膨らませてジェスチャーなどもつけて、言えたらポイントシールをプラスする、と生徒に話したら、たった2分の会話をアレンジして10分に膨らませて言えたペアがありました。発言できたときには、ポイントシールをあげ、教科書の中表紙に貼らせています。地味なシールですが、発言回数シールということで、意欲向上には役立っていると思います。

この活動で最近嬉しい驚きがありました。いまだにアルファベットの小文字が全部書けず、能力も意欲も低いと思われる生徒が挙手し、半分以上暗記して会話を発表したのです。このことで生徒はいくらか自信を持ち、次の活動への意欲を高めたように感じられます。小さなできることを増やす援助をし、称賛することによって意欲につなげられると思いました。
教科書にある会話を生徒たちで発展させる手順としては、まず基本文を使った会話練習、その会話を自分たちにあてはめてアレンジして作った会話の練習、そして最後にジェスチャーを付け、暗記して会話練習を行います。こうした段階を踏みながら、場面設定の中で自分の言いたいことを自然な会話で言える状態に持って行けるようになるといいと思っています。

また、ALTとのTTでインタビュー活動を取り入れ、全員がALTと会話をする機会を設けています。ALTと会話をすると、ALTポイントとしてシールがもらえます。会話をするときには必ず“Hello. Excuse me?”などと言ってから3つのポイント、「Eye Contact」、「Smile」、「Nod」を心がけて会話を発表したり聞いたりするように指示しています。また、ワークシートを使ったインタビュー活動ではインタビューで得られた情報をもとに作文をするという、書く活動を設定しています。ALTのまとまった話の後にはALTが何を言っていたか日本語で質問し、内容が理解できていたかを確認します。小学校での英語学習の影響か、それほど英語が得意でない子も耳がいいです。英語を聞いて正確に発音でき、ALTが言っていることが部分的にでもわかります。簡単なこと、できることを発表させることにより、“できた、授業に参加している”という感覚を持たせ、意欲につなげたいと思っています。

(5)今後の課題
小学校で育まれた英語力の発展を大切にしながら、高校へつなげる。

指導においては、聞く、話す、読む、書くの活動をバランスよく行うべきですが、実際は書く活動が少なくなってしまっています。書くことが一番難しいので、書く活動の内容を工夫する必要があります。そのためには、普段の授業でもっと意図的・計画的に書く時間を取る、これが一番大切だと思います。インタビューした結果を書く活動につなげる。スピーチ原稿を書かせる。ALTへの手紙を書かせる。新年の抱負を書かせる。3年生は英語の文集を作る。文集は3年間の思い出ということで1人あたりA4の半分の量で書いています。生徒は意欲的に取組んでいました。

また、まず小学校で育てられた英語力の実態をよく知った上で、その良さをのばす工夫を考え、授業を組み立てていくことがあげられます。多くの中学校の英語教師は、小学校で英語を学習してきた生徒の実態をよく知らないため、うまく発展させることができていないのではないかと思います。小学校英語で育まれた英語力の発展を意識しながら、中学校での英語学習の狙いを達成し、高校英語につなげていくという視点が必要となると思います。

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