サソ
≫ARCLEについて|Outline≫ECFとは|About ECF≫研究ノート・研究会レポート|Reports≫英語教育研究・調査|Data Base≫書籍・発刊物|Data Base

≫このページを印刷

第2部 講演
「中学校英語で大切に育てたいもの
‐旧・現行・新課程の中学校教科書比較から見えてくるもの」

東京外国語大学 根岸雅史


発表の概要

(1)

中学校英語を考える前提:同じ英語の表現に対する小学生と中学生のとらえ方の違い

小学生は機能(どういう場合に使う)に、中学生は文構造に注目する。
(2)

平成14年・18年・24年度版の教科書比較から見えてくるもの

練習量(さまざまな技能、技能を統合した活動)、インプット量がともに増加する。
(3)

教科書改訂の出発点:「本文とは何か」の検討

多様な役割を持つ「本文」とは独立して、初見のものを「読む力」をつけるコーナーを設置する。
(4)

中学校から高校に渡していくバトン

「やったことがある」と「できる」のギャップを理解し、「やっていてもできないこと」をもう一度高校で「できる」ようにする。

(1)中学校英語を考える前提:同じ英語の表現に対する小学生と中学生のとらえ方の違い

小学生は機能(どういう場合に使う)に、中学生は文構造に注目する。

今日はこれまで中学校の検定教科書作成に携わってきた立場から、来年度からの新しい教科書が具体的にどう変わるのかということを中心にお話しします。それに先立ってお話ししたいのは、先ほどの中池先生のお話にもありましたように、今小学校の外国語活動でやっている内容と中学校の英語の授業でやっている内容には、結構重なっているところがあるということです。ただ、そこには見方の違いもある。たとえば、Do you like〜?という文を取り上げていたとしても、小学生はこれが相手に好みをたずねる場合の表現だと機能的に理解し、かたまりとして理解しています。しかし中学生は、形式的にはYou like〜.という平叙文を質問文に変えたという理解をしていたり、Do you〜?のyouをthey やweに置き換えたり、あるいはDo you eat〜?というように動詞を置き換えたりもするでしょう。同じものでも視点が違うと異なってみえるということです。

中1生がどんな英語を持って中学校に入ってくるのかと考えると、1点目としては、小学校でたくさんのコミュニケーション活動を経験してくる、ということ。2点目はかたまりとしての英語という認識があるということ。先ほどのDo you like〜?もかたまりとしてとらえているかもしれない。それから、英語のルールに関しては、明示的な知識はあまりない。そういう状態で中学校にあがってくると考えられます。

小学校の外国語活動を経て中学校に入った子どもが、中1の最後ぐらいでつまずいてしまうことについて、「She plays tennis.を疑問文に変える」という例で考えてみます。中学生の頭の中では、「まず、playがbe動詞なのか一般動詞なのかを考える。playsはsがついた一般動詞である。次にdoとdoesのどちらを選ぶのか考える。doesということがわかったら、今度はそのdoesを語頭に移動する。そしてplaysのほうは原形に直さなければならない。最後のピリオドはクエスチョンマークに変える」、というような作業をやっているわけですね。英語にはこれ以外にもたくさん複雑な作業があって、wh-疑問文などになると、さらに厄介な作業があります。私たちのように何年も英語に接していれば当たり前と思うものが、知識ゼロの状態から見れば、結構厄介なのではないかと思います。

その前提で、中学校の英語教育はどう変わるのか、いくつかのポイントをまとめました。まず、週3時間から4時間へと時間数が増えます。これは何十年振りかで変わるということですね。このインパクトはかなり大きいと思います。現行の1学年分が増えるという計算になります。ただ、それ以外にはあまり大きく変わっているところはありません。単語数が900から1200に増えますが、言語材料的にはあまり変わっていません。細かい点では関係代名詞などのところが「理解に留める」となっていたのがその歯止めがなくなっています。指導に関しては、4技能を総合的にバランスよく取り上げるということがあります。また複数の技能を統合して使うということが、新学習指導要領のキーワードの1つにもなっています。

↑ページトップへ

(2)平成14年・18年・24年度版の教科書比較から見えてくるもの

練習量(さまざまな技能、技能を統合した活動)、インプット量がともに増加する。

三省堂から出版されているNew Crownという英語教科書があります。平成14年、18年、そして来年度から使われる24年度版という3種類をみてみると、2年生のレッスン8あたりにどの版にもSpeechという単元があります。テーマも”My Dream”で同じで比較がしやすいため、取り上げました。
このレッスンがどのように変化しているかを詳しくみることで、この教科書がどんなことを意図しているのかをお話ししたいと思います。

時間数は増えますが、学習の中身は大きく変わらないことから、練習量をかなり増やしました。大きな枠組みとしては、文法事項を習得するための基礎的な練習をするGETという部分と、文脈の中で意味を考えながらいろいろなやり取りをするUSEという部分に分かれています。GETはさらにDrillとPracticeというコーナーに分かれています。Drillはパタン・プラクティスを中心とした練習をするところ、Practiceはある種の文脈の中で文レベルの練習をするところで、Listen 、Speak、Writeから成っています。さらにWord Cornerでは、各レッスンのテーマごとに単語を紹介しています。今までの教科書では、たとえば色の名前でblueとredは出てきたけれどgreen やyellowは出てこない、ということがありましたが、このWord Cornerでは「色」なら「色」の単語をある程度網羅的に出しています。あとはスポーツや職業の名前なども、文脈の中で偶然出くわすだけでなく、このコーナーでまとめて扱うようにしました。その単語を使いながらPracticeをやっていくという構成になっています。

そのように準備したことを実際に使っていこう、というのがUSEの部分です。ここには大体毎回Readというコーナーがあり、本文とは独立して、あるまとまった文を読むことを目的としています。また、毎回ではありませんが、Mini-projectというコーナーも設けられています。これは技能統合のレッスンで、1つのテーマをもとに聞いたり話したりという活動をするところです。全体的にいうと、先ほど述べた練習量の増加とリーディングの独立という2つが、New Crownの改訂のポイントといえます。また、ライティングやリスニングの量も大分増えています。他社の教科書をみても、共通して練習量が増えているようです。

具体的に活動(問題)の数がどう増えているかをみていきます。

New Crownにおける4技能の活動数の変化

タテの列がそれぞれ平成14年版、18年版、そして来年度から使用される24年度版という意味、ヨコの列は4技能の頭文字です。リーディングなどは先ほどいいましたように最新版では独立したこともあって、かなり増えています。現行の18年度版でゼロになっているのは、Q&Aのような質問がなくなってしまったためです。それから練習量については、Practiceのところなどで話す練習が大幅に増えています。つづいてインプットの量です。

New Crownにおけるインプット量の変化

リスニング、リーディングとも大幅に増えています。たとえば、3冊の教科書にはいずれもMy Dreamという、将来の夢をテーマにした単元がありますが、そこでみてみると、最新版ではGETのパート1に会話の本文があり、GETのパート2にも本文があります。さらに2ページに渡ってリーディングの文章があり、それらを全部足すと238語となるわけです。また、実はリスニングのほうがもっと増えていることに気が付きました。表の数字はティーチャーズブックにあるCDのスクリプトの語数をカウントしたものです。

↑ページトップへ

(3)教科書改訂の出発点:「本文とは何か」の検討

多様な役割を持つ「本文」とは独立して、初見のものを「読む力」をつけるコーナーを設置する。

教科書の変化の大きな特徴としては、今まで本文しかなかったものが、海外のコースブックのようにいろいろな形の活動が教科書の中に入っていること、従来の並べ替え問題とか書き換え問題のようなものがほとんど姿を消したこと、代わりにリーディングやリスニングを通してインプットする量が増えていることなどがあげられます。リスニングに関しては、スクリプトをティーチャーズ・マニュアルに載せるんですが、New Crownの場合、量が増えてしまって今のところ入りきらない状態になっています。

改訂にあたっては、「本文とは何か」を考えることが我々執筆者たちの出発点でした。本文とは一体何かを考えてみると、いろいろな目的に使われていることがわかります。たとえば新教材の導入にも使われているし、内容理解のためにも使われている。多くの場合、会話練習にも使われている、音読のためにも使われているというように、複数の機能を持っています。とくに我々が問題視したのは最初の2つ、つまり新教材の導入と読解を1つの本文が担わされているということでした。多くの場合、新教材の導入をするためにオーラル・イントロダクションをすると、終わった段階では中身がわかっているという状態で読むことになります。そうすると、本当の意味で初めてみるテキストを生徒が読む、読み取るという活動の機会にはなっていなかったのです。入試や実社会では、いきなり1人で読むことがほとんどです。では1人で読む練習をするのはどこですればよいのだろう、ということを考えました。そこで、リーディングテキストを独立させるという結論に達したわけです。

↑ページトップへ

(4)中学校から高校に渡していくバトン

「やったことがある」と「できる」のギャップを理解し、「やっていてもできないこと」をもう一度高校で「できる」ようにする。

最後に中学校のバトンをどう高校に渡すかということですが、その前に1つだけ確認したいことがあります。それは、「先生の助けを借りて授業の中でやったこと」と、「本当に自力でできるようになっていること」とは必ずしも一致しないということです。中学校の先生に「これは生徒はできますか」と聞くと「みんなやっています」という答えが返ってくることが多いのですが、実際に時間をおいて1人でやったときにどれくらいできるのか、となると残念ながら心許ない状況にあるわけです。

今までは中学校後半の学習項目はどうしても練習が足りなかったり、その後のエクスポージャーも足りないこともあって、多くは積み残したままになっています。そして一般的に高校では練習をあまりしないという状況があるので、日本人全体として考えると、中学校の後半で出てきた文法項目は練習をしないまま生涯の英語学習を終えてしまい、結局使えるのは中学校の前半でやったものだけ、ということが起こっているかもしれません。しかし来年度からは今までの中学校の1年間分の練習を増やすことができますし、小学校での2年間のイントロもありますので、積み残しは減ることが期待されます。一方で関係詞などがある程度使えるようになっていることは、やはりあまり期待できません。そこで、高校はどのような状態で生徒が入ってくるのかをよく理解した上で、自分たちのプログラムを組み上げていってほしいと思います。

↑ページトップへ