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2013年度 第3回 研究会レポート
ARCLE研究会 「高校入試研究から見えてきた入試で求められる力、英語学習研究から見えてきた学習者の姿」

 2013年9月20日に、第3回ARCLE研究会を開催しました。今年度のARCLEでは、学習や指導を規定する大きな要因の1つである入試について、特に高校入試を研究しています。また、中学生・高校生がどのような英語学習をしているのか、その実態も把握していきたいと考えています。

 高校入試研究チームからは、2003年度と2013年度の公立高校入試を分析した結果をもとに、高校入試で求められている力がどのようなものか、また2003年から2013年の間でどのような変化が見えそうかを報告しました。また、英語学習研究チームからは、中学生・高校生に、学校および趣味を含む家庭での英語学習全般についてヒアリングし、それらを質的に分析した結果をもとに、中学生・高校生が普段、どんな学習をしていて、それについてどう思っているのか、「英語を使う」ということをどうとらえていそうかを報告しました。

 これらの研究報告を踏まえて、ARCLE研究理事とともに、今後どのような点を深めていけばよいか、12月に開催する上智大学・ベネッセ英語教育シンポジウムでどのような点を扱っていくかを議論しました。


議論を踏まえての所感

上智大学 吉田 研作

高校入試の英語の問題がもう10年前から比較的、知識重視から離れている点は面白い。受験勉強というと、どうしても知識重視の学び方、教え方がクローズアップされるが、入試問題自体は必ずしも知識重視になっていない、というのはどうしてなのか、今後調べる必要があるだろう。中高生の英語の学習パターンを見てみると、やはり、どちらかというと知識として英語を学ぶことに重きが置かれている点からも、この点はうかがえる。特にスピーキングなどの英語の発表力の測定に関してはあまり手がつけられていない点を考えると、リーディングやリスニングは、どちらかというと英語の知識があれば何とかなる、という認識があるのかもしれない。だとしたら、もっと英語のパフォーマンスに重点を置いた指導が実際に行われるためには、やはり、入試にスピーキングとライティングが入らなければだめなのかもしれない。考えてみると、TOEFLやIELTSのための勉強をしている人で、英語の知識ばかりを詰め込んでいる人はいないだろう。だとしたら、高校や大学入試でも、結局は、4技能をきちんと評価するものにならなければ、日本の英語教育は変わらないと言えるのではないだろうか。

静岡大学 亘理 陽一

高校入試の全体的な傾向が見え始めてきたことで、様々な課題も浮かび上がってきた。表面的には変化がないように見えても、個々の入試や問題に分け入ってみるとテスト全体のデザインやテスティング・ポイントに関する課題が見えてくる。入試自体は中学校での学習到達度を測定し選抜するために行われるものだから、受験者が受けてよかったと思えるテストであってほしいというのは欲張り過ぎかもしれない。しかし願わくば、各中学校での入試対策は「対策のための対策」ではなく、各学校・各教員の3年間の意味ある指導がそこに結びつくようなものであってほしい。そのためには,それを可能にする入試問題と指導のモデルを示す必要があるだろう。その意味で、今回は英語学習研究との接点を多く感じた。

信州大学 酒井 英樹

高校入試研究の発表について、2003年と2013年の高校入試を比較分析した結果で、私にとって一番興味深かったのは、技能統合型の問題の割合が増えていたことだ。技能統合型の試験問題は、採点方法や採点基準の設定の困難さや出題意図の曖昧さの点から、テスティングとしては低い信頼性を示すものとなってしまうかもしれない。しかしながら、新学習指導要領では、技能を統合して活用する活動を取り入れることが強調されていることを考えると、この高校入試の変容は妥当なものだと言えるし、望ましい変容ということになるかと思う。この高校入試研究での議論を受け、「良い試験問題」とはどのようなものかということを改めて考えさせられた。英語学習研究では、インタビューによる質的なデータから、多面的な学習実態が見えてくる可能性が示された。質的なデータの分析結果を整理することは難しいが、この研究の担当者としては、頑張ってデータと格闘しようと改めて思うことができた。

駒沢女子大学 工藤 洋路

英語学習に関する中高生へのヒアリングの結果から、多くの中高生は、文法や単語を一通り学習して、練習をたくさんした後でないと、実際に使う(特に話す)ことはできないという一種の幻想を持っていることが分かる。これは、中高生の頭の中では、英語学習の目標として、現在の力では到底及ばない英語母語話者以外に想像できず、その結果、普段は「できない」感覚を持って勉強していることが多いことが背景にあると思われる。この問題を解決するためには、日本人英語教師自身がlanguage userとして生徒のモデルになったり、また、生徒が授業中に英語を使う機会が増えれば、まわりの友人も現実的な良いモデルとなったりすることが期待できる。生徒たちの英語学習に対する幻想はすぐには変えることはできないが、授業では、習った文法や単語を、書くことや話すことの中で使っていけるように指導しながら、現在の英語力でも英語を使ってできることがあるということを自覚させ、英語(学習)に対する態度や意識をより良い方向へ変えていくことも英語教師の大きな仕事の一つと言えるだろう。

東京外国語大学 根岸 雅史

現時点での英語学習研究は、対象となった学習者の数も限られており、一般化は難しいが、その語りの中には意外な発見もあり、今後の大規模調査に向けて貴重な出発点となるだろう。学習者の語りに共通したものとしては、目の前の学習と実際の言語使用との乖離であり、「いつかできるようになったら使う」という学習モデルである。こうした学習モデルは日本人の教師にも学習者にもある程度共有されているのではないか。日本人のほとんどは英語は必要ないというような議論もある。しかし、ペンギンは飛ぶことをしないうちに翼が退化してしまったと聞く。学習者が自分で飛びたくなったとき、あるいは、飛ばなければならなくなったときのために、飛び方を教えておく、飛ぶ喜びを味わわせておくことが大切なのではないか、そんなことを考えた研究会であった。

青山学院大学 アレン玉井 光江

今回の研究会では、中高生の英語学習実態を把握するために行われたインタビューについての質的な分析の報告があった。私も中学生を対象としたインタビューを行っていたので大変興味深く報告を聞かせていただいた。特に中高生の英語学習における先生や保護者の影響について述べられているところは、私のデータからもはっきり出ていたので同感するところであった。また、「英語が使える」人材を育成する必要性は十分に理解しているつもりだが、それを教室空間の中で可視化した目標とするのは、どのような工夫が必要なのだろうか。中高生にとって「英語ができる」というのはどのようなイメージであり、またそのために教師はどのように指導していくのが必要なのか、などと報告を聞きながら考えた。

関東学院大学 金森 強

中学生・高校生の学習ストラテジーは、教師の指導法や試験に縛られる。また、塾や予備校で教えられる点数を上げるためのノウハウや仲間内に流行りの学習法等からの影響もあるのかもしれない。評価・テストは、指導者がどのような力を育てたいのか、どのように学んで欲しいのかを学習者に伝える機会となる。そのためにも、教師がしっかりとした学力観を持ち、評価・テストに工夫をすることが期待されるのである。コミュニケーション能力育成を目指した指導や評価が十分できていれば、生徒に学んでいる事と将来やキャリアとの結びつきを感じさせることができるのかもしれない。良い英語の授業が行われているかどうかは、生徒が「将来、何のために英語を学ぶのか」と言う問いに答えられるかどうかで判断できそうである。

東海大学 長沼 君主

現在、中高の拠点校を中心に開発されているCan-Doリストは、教室内から教室外で「できるようになること」に目を向けさせ、「なりたい自分」を思い描かせるといった動機づけのような側面も目的にある。ただし、教室外の行動の多くは教室内の活動と直接的には結び付きづらく、漠然とした興味を超えて、個人的な興味に育て、なりたい自分を強くイメージできるようにしていくには時間がかかる。自律的学習は自立的な学習では必ずしもなく、教室外での授業から離れた自分の興味に基づいた能動的自律性だけを意味するわけではない。授業中の課題への自己の学習へのメタ的な気づきを高め、様々に方略を工夫するといった受動的自律性を考えることも必要であろう。

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