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第2部 中学生・高校生の英語学習実態から考える指導と学び−インタビューを手がかりにして

コーディネーター  :  酒井 英樹  (信州大学)
研究メンバー  :  酒井 英樹  (信州大学)
 :  木 亜希子  (青山学院大学)
 :  工藤 洋路  (駒沢女子大学)
 :  加藤 由美子  (ベネッセ教育総合研究所)
 :  福本 優美子  (ベネッセ教育総合研究所)

中学生・高校生が学校外での学習(授業の予習・復習、宿題、個人的学習など)をどのように行っているかのインタビュー結果に基づき、英語の学習の実態やその意識について明らかにし、フロアの先生方との意見交換を行いながら、これからの指導と学びを考えました。

発表の概要
1.

英語学習実態把握研究の目的 酒井英樹(信州大学)

中高生の学習実態を把握することで、学習者や英語教育の課題を明らかにし、使える英語を身につけるための学習体系を提案したい。中高生にヒアリングした結果を質的に分析し、見えてきた具体的な学び方など、指導に役立ていただければと思う。
2.

調査概要 工藤洋路(駒沢女子大学)

大まかな質問項目を用意し、興味深い部分をさらに掘り下げるという、半構造化ヒアリングの形式をとった。そこから、生徒は、ノートの左側に本文を、右側に和訳を書いている、家庭の学習は学校の授業に規定されているといったことが見えてきた。
3.

分析方法:Thinking at the Edge(TAE) 木亜希子(青山学院大学)

インタビュー時の生徒の表情、声の抑揚などの要素も分析に取り込んでいく手法を紹介する。分析のステップを経ることで「うまく言葉にはできないが分析者が重要だと感じたこと」を系統立てる。
4.

分析結果

5.

まとめ 酒井英樹(信州大学)


1.英語学習実態把握研究の目的     酒井英樹(信州大学)

本研究の目的は、中高生の学習実態を把握することにより、学習者や英語教育の課題を明らかにし、使える英語を身につけるための学習体系を提案すること(スライド1)で、私たちは、中高生に実際に会ってヒアリング(聞き取り調査)を実施した。大規模調査とは違い、この質的研究は対象人数が限られるため、出てきた結果は個別事例であり、一般化できるものではないが、転用可能なものである。大人数の調査では、全体的な傾向はわかるものの、個々の学習者の具体的な学び方などは見えてこないので、一人一人から得られる個別の文脈に則した情報は、とても大事なものだと考えている。ここで得られた知見を、皆さんが担当する子どもたちに当てはめて考え、教育指導に役立てていただければと思う。

<スライド1>

研究の枠組み
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2.調査概要     工藤洋路(駒沢女子大学)

調査は、中学校2年生8名、高校2年生8名の計16名を対象とし、生徒1人に対してインタビュアー2人が、約30分のインタビューを行った。あらかじめ大まかな質問事項を用意し、生徒自身から話を聞く、半構造化ヒアリング形式で実施したため、基本的なことを質問した上でさらに興味深い部分は、どんどん掘り下げて聞くことができた。

結果として分かったことの代表的なことを紹介する。生徒は、ノートの左側に本文を写し、右側に和訳を書くという学習を行っている。英語ができるとは、長文が読めることや、文法が分かることだと考えている。家庭で行う学習は、学校の予習、復習、宿題、テスト対策がほとんどであり、自ら課題を見つけて取り組む学習は行われていない。現在受けている授業を、中学生は肯定的に見ているが、高校生の一部は批判的に捉えている。調査した生徒全員が、程度の差はあるが将来英語は必要だと考えている。学外で自発的な英語学習を行っている例はあまり見られない。先生、保護者など周りの大人から受ける影響が強いと考えられる。

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3.分析方法:Thinking at the Edge (TAE)     木亜希子(青山学院大学)

今回の分析は、面接者が面接の際に感じたことも取り込みながら分析を行う、 Thinking at the Edge(TAE)という手法を用いた(スライド2)。分析者は面接者と同一人物にすることで、インタビュー時の生徒の表情、声の抑揚、非言語から感じられた要素も分析に取り組んでいくことができた。

<スライド2>

TAEについて

TAEは、アメリカの哲学者・心理学者であるジェンドリンらが開発した理論構築法で、うまく言葉にはできないけれど重要だと感じられる身体感覚(フェルトセンス)を、言語シンボルと相互作用させながら精緻化し、新しい意味と言語表現を生み出していく系統立った分析方法である。中高の先生方においては、日々の授業の中で生徒とやり取りをしていく中で積み重ねられてくる経験知が、フェルトセンスに当たる。

分析は、@フェルトセンスから語る、A実例からパターンを引き出す、B理論を構築する――この3つのパートで順に行われる。パート1で、明確には言語化できないが自然と身体的に感じられる感覚(フェルトセンス)を言語化し、パート2で、多様な側面を選び出してパターンとして言い表すとともに、各パターンを相互に交差させ、データから新たに浮かび上がってくる知見を書き留める。その後、パート3で、分析者が保持しているフェルトセンスによって用語を選出し、概念とする。

分析の結果、浮かび上がってきた言葉、用語、あるいはタームは、面接者兼分析者がそれぞれのフェルトセンスで感じられた独自の意味合いが込められているため、一般的な辞書的意味で捉えてはいけない。

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4.分析結果 

@ 中学2年生 男子     酒井英樹(信州大学)

<スライド3>

中学@

<スライド4>

全体の中の個の確立

この生徒は、いろいろなことを選択していると感じた。「自分で」という言葉が何回も出てくるように、自己決定している。動画で英語のアニメーションを聞くなど、「聴いたり見たりしていい感じ」で、多様な勉強方法を工夫して行っている。授業の様子を話す内容から、素直に受け止めているという印象を持った。ポータブルオーディオプレーヤーなどのICT機器を利用している。全体的には、インタビューのやり取りが気持ちよいと感じたが、少しもやもや感が残った。インタビューから読み取れる行動や意識、思考などのパターンを整理すると11項目となる(スライド3)。

教師の言うことも聞いているが、動画を見たりする話のときには、先生という言葉が一切出て来ない。そこから、学習と楽しみは別物であるような印象を持った。高校進学に向けた勉強態度について尋ねると、「英語だけ足手まといにならないようにはしたい」と言うが、「これからのためを考えて、まあ使っていったりしたいと思う」とも答える。「英語に触れること」と、「意図的に頭に入れること」が相反し、本人の中では交わっていないのだろう(スライド4)。英語に触れるのは楽しいが、成績のために英語を勉強することに違和感を持っているのではないかと感じた。

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A 中学2年生 女子     工藤洋路(駒沢女子大学)

この生徒は、先生のことが好きな従順な生徒で、問題を解くことが大切だと思っている。英語は人と比べて苦手だと思っており、自分の学習パターンや得意なことが分かっているので、それに合った塾を選択するなど、自分のことをそこそこ分かっている。自分の学習スタイルから抜け出すようなことはしないちょっと消極的な面もあり、勉強時間数を気にするところから、量を大切にしている学習者だと感じた。友だちを大切に思い、友だちも頑張っているから私も勉強を頑張るといった発言が見られた。家庭はそこそこ熱心で、家族にアドバイスを求めたり、協力してもらえる状況にある。非常に頑張り屋で、部活も勉強も他の教科も一生懸命やっている。

<スライド5>

中学A

読み取れるパターンは7項目が挙げられる(スライド5)。  「受けたい授業はどんな授業がいいの?」と聞くと、「今の授業でいいと思う」「問題を解く速さとかが身につくのでやっぱり入試のときに役立つかなと思う」と答えるなど、今の勉強を非常に肯定的に捉えている。先生のやり方を「よく役立つと思う」と答えているので、先生が提示する勉強法が好きな生徒だといえる。

ラジオの基礎英語講座など、他の勉強方法も知っているが、聴こうとは「思わない」と答えたり、授業中に試験と関係のない映画の話には手を挙げて答えることはないことからも、試験で点を取ることが英語の勉強の目標だと思っている。暗唱や暗写をすることも彼女の発言から出たが、「期末テストに教科書の本文が丸々出て、それについて抜けている単語を書いたりするので、暗唱してるとそれを思い出して書いたりできる」と答えている。こういう生徒は、皆さんが教えている生徒さんの中にもいるのではないか。

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B 高校2年生 男子     加藤由美子(ベネッセ教育総合研究所)

<スライド6>

高校@

この生徒は、好きなものを話すときの様子と、嫌なことを話しているときの雰囲気が全く違っていることから、好き嫌いがはっきりしていると感じた。「かっこいい」という言葉を連発したりするなど、かっこよさを意識している。幼稚園の先生から塾の先生まで、いろいろな先生のエピソードが多く出てきた。しかし、私はインタビューの最後に、彼は苦しんでいると感じた。いろいろ批判的な部分がある裏には、自分自身に対して苦しんでいるのではないかと感じ、もやもやを残してインタビューが終わった。パターンとして表れてきたのは7点になる(スライド6)。

彼は、中学時代に、教科書以外にもいろいろな本を読めるようになり、英語に自信があったが、「高校入って文法、全然分かんなくなった。すごい難しいなってちょっと思いました」と答えている。私は、今の高校の英語学習に納得していないというパターンを導き出した。「すごい難しい」と思ったレベルを、「ちょっと思いました」と引き下げている。そこから彼の心の迷いを感じることができる。

<スライド7>

英語学習において葛藤している

彼は、中学時代に、好きな先生からの影響で英語の授業に積極的に取り組み、英語学習の楽しさと、自信を感じていた。高校に入って、「no more than」と「no less than」の違いなど、細かなニュアンスへの違いや理解を難しく感じ、英語学習の大変さにぶつかって自信を失った。英語学習に立ち向かう意欲を失って、結果的に成績も芳しくなくなってきている。この生徒は、このテストを乗り越えないと次のテストはやってこない、将来のためにこの英語に立ち向かっていくという中で、高校の英語学習と、それにうまく対応できない自分自身の両方に苛立ちながら葛藤している(スライド7)。

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C 高校2年生 男子     福本優美子(ベネッセ教育総合研究所)

<スライド8>

高校A

この生徒には、行動に理由がある、安定している、学習に押されていない、気持ちが乗り越えている、不安を持っていないという感じを受け、とても自信に満ちあふれていて、キラキラしていた。しかし私は、なぜか違和感を持った。彼のパターンは、8項目になる(スライド8)。

彼は、高校に入る前にいろいろと英語に触れたことが、英語に積極的になる原体験となっている。小中時代にも多くのインパクトのある楽しい英語体験をしている。中2のときにオーストラリアで10日間ホームステイをし、英語だけを話す環境に置かれ、言葉に興味を持つようになったと、とても生き生きと語ってくれた。高校では教科書本文を2時間かけて写す予習があるが、そういうことも含めて高校の英語学習を受け入れて無理なくこなしている。小学生のときには、英会話教室に自ら希望して通うなど、興味を持ったことを実現させるために自分から行動を起こしている。「ALTの先生がすごく優しくて」とか、「ちゃんと聞いてくださって」と話すように、先生を肯定的に受け入れている。また、日常的に学んだ文法や語彙を活用できている。彼の将来の夢は、言語学の研究者で、学会で自分の意見を英語で言えるようになりたいと、はっきりとしたイメージを既に持っている。

<スライド9>

有能感・ゆるぎない自信

この生徒は、子どもの頃の体験が学習を促進し、高校の英語学習にも疑問を持たず、今のところ適応している。テストを含めた学校の学習がうまく進んでいて、成績もよさそうだ。学んだ文法や語彙を活用できることによって学習意欲をさらに高めていて、有能感と揺るぎない自信を感じている(スライド9)。

[フロアからの意見]

小学校(公立):この子は、確固たる夢を持ち、とても良い状態で英語学習に取り組めている。先生の役割は、この子の邪魔をせず、時には暖かく見守り、継続して自信を持たせる内容で指導することではないか。この子がこれだけ有能感を持てたのは、英語圏でのホームステイ体験などにより、英語はコミュニケーションの道具だという本質が理解できていたからだろう。すべての子どもにリアルな英語体験をさせることは難しいが、ALTを活用した疑似体験などで英語の楽しさを教えるのが、私たちの役割だろう。

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5.まとめ     酒井英樹(信州大学)

今回、16名の生徒へのインタビューを行って、それぞれにヒストリーがあり、そういう背景を持ち込みながら、いろいろな関わりの中で英語を学んでいると感じ取ることができた。生徒の学習に、先生が良い影響も悪い影響も与えていることが分かる。私たち教員、あるいは教師は、何を期待し、何をしていくべきかを考えるステップに入っていけたらと考えている。私たちの研究は今後も続き、いろいろなところで公表していく予定なので、ご意見をお寄せいただきたい。

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