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ARCLE理事・研究員からのコメント : シンポジウムを終えて

※当日の発表資料はプログラムのページよりダウンロードしていただけます。


上智大学 吉田 研作

今回のシンポジウムも例年同様、非常に具体的なテーマについて、調査結果を基に議論が進められたが、今回は、参加者全員が参加する形式が取られ、より充実したシンポジウムになったと思う。子どもたちの英語の学習の実態、彼らが思っていることが色々な形で明らかになり、布村、加藤両先生による具体的な教え方の提示など、非常に有益な会になった。また、リーフの形で一人一人の参加者が自分の考えや気持ちを表す機会があったことも、非常に良かった。ただ、午前午後と、内容的に非常に濃く、一回のシンポジウムで扱うには情報量が多すぎたかもしれない。

日本の英語教育が大きく変わろうとしている現在、今回のように、単に教育現場だけでなく、教育行政、研究者、学生、そして民間の教育機関等、英語教育にさまざまな立場から関わっている人がそれぞれの立ち場から発言し、互いに意見を共有できたことは非常に良かったし、このような機会は、今後もっともっと必要になるだろう。

慶應義塾大学 田中 茂範

文法指導では「わかる、使える」が鍵である。しかし、今回の「中高生の英語学習に関する実態調査2014」では、「文法が難しい」という生徒の声が上位にあり、そのことが英語学習を難しくしているという側面が明らかになった。そこで、英語教育改革の1つは、文法指導の在り方を変えることであると確信した。その際の決め手は、「文法知識」から「文法力」に視点を移すことである。言語は自由表現と慣用表現を両輪とする。自由表現のよりどころになるのが文法力である。「文法は知っていても使えない」という現象は、文法知識は文法力を保証しないということを意味する。結論をいうと、教師にとって必要なのは、英文法の指導を行う際に、「文法力を養成する」ということを目的に掲げて、説明とエクササイズを実践することである。そのためには表現のための文法、すなわち「表現英文法」という視点が不可欠となる。表現者が状況を表現する際に文法(例.時制、態)はどういう役割を果たすかという捉え方である。表現者、状況、表現の関係の中に文法を位置づけるということである。

東京外国語大学 根岸 雅史

「中高生の英語学習に関する実態調査2014」では、中学前半(中1の前半から中2の前半)と高校1年の前半に英語が苦手となることが分かった。

中学前半は、英語の基礎となる文法・文型などの学習項目が数多く出てくるために、これらが学習上の障害となっている可能性がある。この段階で「落ちこぼれ」を出さないためにも、どれだけ丁寧にやってもやりすぎということはない。

これに対して、高校入学段階でこれだけ多くの英語嫌いを出している認識は、高校教師にはあまりなかったのではないか。私が行った教科書の難易度調査では、中学から高校になる段階で教科書のテキスト難易度が急激に上昇している。ある高校の例では、生徒が教科書のテキストを自力で読んだ場合、3割程度しか理解できないと推定される。高校では、大学入試を意識して教科書選択がなされ、生徒の英語力の実態をあまり考慮していない可能性がある。だとすれば、高校入学と同時に英語嫌いをつくらないためにも、教科書のありさまは再考されてもいいのではないか。

青山学院大学 アレン玉井 光江

今回のシンポジウムもたくさんのプログラムが準備され、大変有意義なものでした。その中に中高生の英語学習に関する実態調査についての報告がありました。発表では、重要な項目について酒井先生から説明があり、その後先生より調査結果について質問が出されました。参加者全員がグループで話し合い、その後、グループ討議の結果が報告され、最後に吉田先生、根岸先生がコメントされました。中学や高校の先生、院生、学生、教育関係者などさまざまな方々が真剣にかつ、楽しく話されていた様子がとても印象的でした。また、グループの発表を聞いた後にフロアから自然に大きな拍手が寄せられましたが、シンポジウムに参加した全ての人が1つになった感じがして、素晴らしいと思いました。会を重ねるごとに「みんなでつくるシンポジウム」という思いが強くなります。また、最後に谷山所長から今後の世界の動向が提示されました。激しく変化する世界へ向けて羽ばたく人材育成を担う私たち英語教育に従事する者の責任を強く感じました。

関東学院大学 金森 強

「気づきの木」に書き込まれた参加者の想いを感じることができたことが、今回、シンポジウムに参加した一番の収穫であった。英語教育の抱える課題についていろいろな角度から考えることができたからである。

光り輝く巨大な氷山も、その下にある土台部分が広がっていなければ簡単に崩れ落ちてしまう。英語教育の改革が進んでいるが、その成功のためには、母語教育を含めた小学校から大学までの多言語教育の在り方をしっかりと議論しながら進めることを忘れてはならない。すでに、私立中学校の入試に英語を導入する学校が増えてきていると言う。音声面を軽んじたペーパ―テストだけの実施で終わっているとしたら、小学校段階の英語教育を歪めかねない由々しき問題である。

ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんのスピーチを聞くたびに教育の重要性を痛感する。グローカル時代に生きる児童・生徒の才能を引き出し、豊かな社会を形成していけるように導くためには、われわれ教育に携わる人間がそれぞれの立場で課せられた責任をしっかりと果たさなければならないのである。外国語教育においては、外国語を学ぶことを通してどのような人間を育てるのかを考えることが大切である。人との関わりを大切にした「言葉の教育」としての外国語教育が広がることを期待したい。

東海大学 長沼 君主

CEFRの教師版の言語教師能力参照枠としてヨーロッパではThe European Profiling Gridが最近開発されました。CEFRと同様に6つのレベルに分かれており、いわゆる教授力に関わる部分だけでなく、言語能力から異文化間コミュニケーション力、デジタルメディアへのリテラシーなども含まれているのですが、自律的学習者を育てるには、教師自らが自律的教師となり、実践を内省する価値を伝えていくことが大切で、その意味でも振り返りリーフの活動は意義深いです。グリッドの1つの項目のInteraction, management and monitoringといった教室運営に関わる部分の記述で、A2に相当するレベルでは指示を明確に出し、活動を回せるようになる段階なのに対して、自立的段階といえるB1になるとフィードバックやモニタリングができるようになることが求められています。B2ではさらにフィードバックを引き出せるともあり、C1になるとそれを活動設計に生かしていけるようになります。生徒を見取るだけでなく、引き出していく仕掛けをつくることで、内省をより豊かにしていけたらと思います。

※ シンポジウムの詳細報告書は3月中旬に本WEBサイトに掲載予定です。

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