世界中のさまざまな人々が使う「英語」は、何千もある言語の中で、「国際語」と呼ばれる言語です。この「国際語としての英語」をめぐり、昨今特に日本国内では小学校への英語教育導入に関するさまざまな議論が行われています。しかし、それ以前に、日本の英語教育には、小学校から大学までを貫く健全なカリキュラム・フレームワークがないという大きな問題があります。一貫したフレームワークがなくては、小学校と中学校で教える内容にずれが生まれてしまい、英語嫌いを生み出すことにもなりかねません。英語教育のグランド・デザインを描くことは急務なのです。
このような状況の中、必要なのは発達的観点を取り入れた「英語カリキュラム・フレームワーク」であると我々は考え、その構築に取り組んでいます。このフレームワークの構築にあたっては、具体的にテストや教材、教授法などに活用できるよう、発達段階別に、何をどう教え、結果をどのように評価するかという明確な指針を示さなければなりません。そのための指針となるのが「英語コミュニケーション能力」です。
「英語コミュニケーション能力」を考える上での前提条件を確認しておく必要があります。まず「異文化」の問題です。現在の状況においては、従来のような「異文化理解」の考え方には無理があります。なぜならば、従来は「外国語としての英語」であったため、日本文化vsアメリカ文化といったことがありえたでしょう。しかし、「国際語としての英語」を学ぶ現在は、世界中のさまざまな人が英語を介したやりとりを行うため、異文化ではなく「多文化を生きる」という状況です。
ここでいう「多文化」とは多様性のことであり、文化的個性を備えた対話相手、他者を指します。他者とは、違いをもたらす存在であり、つまりは違いとどう向き合っていくかということが重要となります。また「多文化を生きる」ためには、「たくましさ」と「しなやかさ」が必要です。「たくましさ」とは自分で考え、判断し、行動する自立性であり、主体性のある自己表現を行うということです。
そして対話相手としての他者がいます。他者と関係調整を図るためには自己表現力と共に対話力が必要です。これが「しなやかさ」です。「しなやかさ」がないと相手を受け入れたり、違う物と向き合うことはできません。
英語教育の目的である「英語コミュニケーション能力」については、従来からさまざまな定義がなされています。しかし、これまでの「英語コミュニケーション能力」の定義はいずれも構成要素を分類的に定義したものにすぎませんでした。
ECFにおいては、「英語コミュニケーション能力」は「タスク処理」と「言語リソース」の相互運動であると捉えています。つまり、「どんなタスクを、どういった言語を使って、どれだけ機能的にこなすことができるか」ということです。そして、あるタスクを言語的に処理するために必要となる言語知識が、「言語リソース」です。
「言語リソース」は「語彙」「機能表現」「文法」という3つから成り、それぞれは相互に関連します。また、ここで大事なのは「言語リソースは語彙・機能表現・文法から構成される」というだけでなく、「語彙力・機能表現力・文法力」とは何であり、そしてそれがどういう関係にあるのかを、明確に示すことです。
「使い分けつつ、使い切る力」というのは語彙力を規定する際の言葉です。例えば、speak、say、talkなどの意味の近い単語の使い分けや、一つの単語をさまざまな状況に応じて使うことができる、これが語彙力なのです。
ECFの最大の特徴は「発達的観点」を取り込んだフレームワークにあります。
ECFでは発達段階を「らせん状のコミュニケーション発達」として捉え、それぞれの上限をタスクと言語リソースの両面から記述し、データベースとして整備しています。この「らせん状のコミュニケーション発達」は、「英語コミュニケーション能力」を量的にのみ規定しようとするのではなく、質と量の両面から規定する重要な概念です。
すなわち、幼児には幼児に必要とされる「コミュニケーション能力」があり、自分の関わる世界の中で生きていきます。その後成長し、発達段階が進むと関わる世界や関わり方も変わってきます。しかし、このプロセスは生まれてから生涯を終えるまで一生進むものです。
そしてこのプロセスは、発達段階が進むにつれて複雑にはなるものの、少なくとも発達段階における代表的なタスクと、それを処理するための代表的な言語リソースについては、ある程度まとまった記述をすることができるでしょう。
「タスク処理」と「言語リソース」の複合として捉えた「英語コミュニケーション能力」からは、小学校から大学まで一貫したカリキュラム編成や到達目標、その測定の狙いなどもみえてきます。