サソ
≫ARCLEについて|Outline≫ECFとは|About ECF≫研究ノート・研究会レポート|Reports≫英語教育研究・調査|Data Base≫書籍・発刊物|Data Base

≫このページを印刷

「研究ノート」は、ARCLEの研究理事・研究員が注目する自由なテーマを執筆するコーナーです。今回は、東京外国語大学・長沼君主先生です。

評価としてのCan-doと動機づけのためのCan-do
東京外国語大学 長沼君主


ここに来て欧州評議会のCEFR1(Common European Framework of Reference for Languages)を日本の教育文脈に当てはめようという動きが活発になっている。2008年の第47回JACET(大学英語教育学会)全国大会では、東京大学の岡秀夫先生を中心として、CEFRjapanの枠組みの提案がなされた。慶應義塾大学の外国語教育研究センターでは、行動中心複言語学習プロジェクト2として、日本語版CEFRチェックリストが開発され、一貫校の枠組みの中で検証されつつあり、こちらは2008年の第12回JLTA(日本言語テスト学会)全国研究大会でその研究成果が報告されている。JALT(全国語学教育学会)では、Framework & Language Portfolio SIG(言語参照枠&言語ポートフォリオ研究部会)が立ち上がったばかりであり、英語のみならず、日本における様々な言語の教育でCEFRの言語ポートフォリオ(European Language Portfolio3)を応用していこうとしている。

こうした動きは大学や学会における動きであるだけでなく、SELHi(Super English Language High School)指定校などでも、各学校のシラバスの構築に際してCan-do statements (Can-do)を学校教育の現場に当てはめていこうという動きが出てきており、現在も継続して研究がつづけられている4。日本語教育の分野でも、2010年の日本語能力試験の新試験への改定と並行して、国際交流基金により日本語教育スタンダードの構築が進められており5、Can-do statementsに基づいた言語能力フレームワークを用いた教育環境が、各分野で急速に整いつつあると言えよう。

Can-do statementsに基づいた能力の記述と評価の枠組みが整うことにより、これまで客観的テストによる評価が中心であり、量的な評価が到達の基準として求められがちであったところに、より直接的に指導内容を反映した、多様な能力をとらえた質的な評価が用いられるようになる利点がある。Can-doチェックリストを用いた自己診断評価に留まらず、実際の行動場面を想定した評価タスクを開発することで、Can-do statementsが抽象的な目標ではなく、具体的な学習行動につながってくるようになる。

Can-do研究を進めていく上で重要となるのは、Can-doをレベル記述の枠組みや評価の道具としてのみ考えるのではなく、Can-doが学習者の動機づけにも資するという視点を持つことであろう。動機づけの中心的な理論に自己決定理論(self-determination theory)と呼ばれる理論があるが6、この理論では自律性(autonomy)、有能性(competence)、関係性(relatedness)の3つの欲求を人間の基本的欲求(basic human needs)としている。Can-doの役割としてまず考えられるのが、学習行動の指針としての役割であり、自律学習を進めていく上で、目標の設定や到達度合のモニターをする際に、チェックリストとしてのCan-doの存在は大きな助けとなる。

しかしながら、Can-doの動機づけに果たす役割はそれだけではない。学習者に課題に対する効力感を与え、有能感を高めることにこそ、その価値がある。Can-doリストは現在の能力と拮抗したレベルや上のレベルに目標が設定され、ともするとCannot-doリストとなってしまうことがあるが、独力では完全には達成できないが、何らかの援助や補助手段があれば達成できるといった中間段階での到達も評価したり、ひとつ下のレベルの素材や活動に取り組ませたりすることで、学習者が「できる感」を感じることができるようになる。

このようにして課題に対する効力感を与えることは、学習者を次の学習へと動機づけ、それが教員との関係性の充足にも寄与する。学期ごとのテストといった定点的な数値的評価だけではなく、より日常的な学習に沿った形で「できる」ようになっていく実感を与えることにより、取り組んでいる学習の重要性が認識され、それが個人の価値として内在化されていき、自ら進んで学習を行う内発的動機づけへとつながっていく。学習指導要領の改訂により、小学校に外国語活動が導入されるが、こうした動機づけの道具としてのCan-doの価値がより広く根付いていくことを望んでいる。


↑ページトップへ