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「研究ノート」は、ARCLEの研究理事・研究員が注目する自由なテーマを執筆するコーナーです。今回は、千葉大学・アレン玉井光江先生です。

公立小学校現職教員の英語スキルアップ研修の必要性について
千葉大学 アレン玉井光江


公立小学校現職教員の研修を通して

私は公立小学校での英語研修に参加する機会が多いのですが、先生方の雰囲気が以前と比べ、随分変わってきたと感じています。数年前までは、かなり多くの先生方が「なぜ英語の研修なんかを受けなくてはいけないのか」と思われていたようでした。しかし、これまで小学校教員の研修を受け持った経験から、私は簡単ではありますが大切なことを学びました。それは、子どもたちにしっかりと英語に触れてもらうためには、まずは小学校の先生に英語を好きになってもらい、英語を身につけてもらうことが大切だということです。

最近の研修会では先生方はとても積極的になられ、英語を教えることが他人事ではなくなってきているという感じを受けます。やはりこれは「外国語活動」の必修化による影響でしょう。文部科学省は『小学校外国語活動 研修ガイドブック』で、小学校外国語活動の指導者に求められる力として次のような点をあげています1

1.児童の発達段階を踏まえ、興味・関心を抱くような学習内容と活動を設定できること
2.積極的にコミュニケーションを図ろうという気持ちを起こさせることができること
3.英語の音声や基本的な表現に慣れ親しませることができること

このうち最初の2つについては、初等教育のプロである小学校の先生方は他の教科指導、また学校生活全体の指導を通して日々実践されていることだと思います。いま先生方に必要なのは、3番目を伸ばすことであり、先生方の「My English」を育てることだと思います。

公立小学校の授業を見学して考えること

公立小学校の現場では、外国語を通じてコミュニケーション能力を育てる、という目標に合わせ、英語を使って児童同士で情報を聞き合うという活動が主流です。これ自体に反対するつもりはありませんが、ややもすると発信、つまり子どもに英語を言わせるだけの授業が横行し、コミュニケーションの本来の意味である「分かち合い」がなされていない授業になりがちです。そのような授業では、通常の学級担任とALTとのやり取りなどでモデル会話が導入され、それをクラスで何度か練習した後、友達に聞く活動(これをゲームと呼ぶ場合が多い)に移り、最後に児童は「振り返りカード」に活動の印象を記入しています。

しかしながら、これでどのようなコミュニケーション力が身につくのでしょうか。例えば、ある授業では『英語ノート2』Lesson3の“When is your birthday?”“It's June 6th.”などのモデル会話をもとに、ひたすら“When is your birthday?”と月日の読み方を練習していました。その際どうして人の誕生日を聞きたいのか、どのような状況でこの質問が出てくるのか、そしてそれがどう発展していくのか、などについてはあまり考えられていません。さらにゲームとなると、たくさんの人に聞くのがよいと思っている子どもたちが、まともに相手の言葉を聞かず、「6月だよね」などと日本語で確認をとり、ワークシートを完成させている姿をみることもあります。

また、最近見た授業では、5〜6人の児童が1列に並び、前の人が後ろを向くのを合図に次のような会話を練習していました。
A: Hello.
B: Hello.
A: How are you?
B: I’m fine.
A: Good-bye.
子どもたちは皆、笑顔で楽しそうに英語を言っていましたので、見学していた先生の中にはこれをよい活動だと思われた方もいたと思います。しかし、実際の会話で「元気?」とたずねられ「元気よ」と答えた後「さよなら」と言われたとしたら、どんな思いがするでしょうか。

英語を知らない子どもたちに多くのインプットを与えると、彼らが混乱してしまうのではないか、また英語を嫌いになってしまうのではないかと思い、なるべく短く、簡単な英語を与えようとする気持ちは理解できます。しかし、難しいからといって言葉をそいでしまうと、言葉を成り立たせている文脈が乏しくなります。母語獲得であろうと、外国語学習であろうと、文脈のないところでは言葉は育ちません。意味のある文脈が成立するためにはディスコースを意識し、言葉をそのまま与えることが大切です。子どもたちは想像以上に、全体の流れ、文脈の中から英語を理解する力に優れています。

国語教育で文脈の大切さを痛感されている小学校の先生方は、言語学習における文脈の大切さについては十分に理解されています。先生方が外国語活動の授業でも文脈を大切にした授業を実践しようとすると、ある程度の英語力が必要になってきます。外国語活動の第一義はコミュニケーション能力の育成にあるといわれていますが、本当の意味でのコミュニケーション能力を育てる授業を展開するためにも、教員に英語力が必要です。しかしながら、小学校の先生方の英語力をアップさせるような研修は、想像していた以上に少ないのが現状です。まずは、小学校の先生方ご自身が英語を好きになるような英語スキルアップ研修の実施が、喫緊の課題だと思います。


1 文部科学省(2009)『小学校外国語活動 研修ガイドブック』旺文社、p.17
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