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第1回研究会レポート
小学校外国語活動に求められる真の「コミュニケーション能力」とは
千葉大学 アレン玉井光江先生


2011年度より小学校で英語が必修化されるのに先立ち、今年度、拠点校に指定された小学校に、共通教材である『英語ノート』の試作版が配布されています。2009年度からは全国の5・6年生が使用できるように配布が予定されています。このような状況の中、今回のARCLE研究会分科会では『英語ノート』の内容をふまえ、今後の小学校英語の取り組み方について、千葉大学のアレン玉井光江先生にお話いただきましたので、その一部をご紹介いたします。

小学校外国語活動で育てたい力とは

『英語ノート』[1]は5、6年生ともに、9つのレッスンから成っています。基本的に週1回年間35時間の想定ですから、1つのレッスンに3ないし4時間をかけるということになります。中はオールカラーで、英語の文字はほとんどありません。一見、韓国の教科書に非常によく似た作りになっています。ここに掲載されている9レッスンというのは、1992年から公立小学校の中でいろいろな形でやってこられた英語活動の集大成みたいなところもありますので、そういう意味ではまとまっているというか、使い勝手はいいのではないでしょうか。

学年ごとに、分厚い「指導書」[2]がありまして、これはよくできていると思います。まず、各レッスンの狙いがあり、必要なクラスルームイングリッシュが示され、さらにそれぞれの時間ごとに何分刻みでこういう順番でこういう活動をします、という教案が載っています。よい点の1つは、クラス担任とALTがここでこんな言葉を投げかけてこういうふうに動きましょうということまで詳しく書かれていることです。ですからALTに見せれば授業内容がすぐわかり、打ち合わせの時間が取りにくいところでは、とても助かると思います。

ただ、困ってしまう点もあります。まず、5、6年生に与える内容として妥当かということがあります。例えば、「こんにちは」というテーマに3時間かけているんです。ある小学校の先生に聞いてみても、2年生ならそれぐらいかかるけれど、5年生にこの内容で3時間もかけると時間を持て余してしまう、と言われました。

ところが、『英語ノート』に付いているCDの内容はけっこう難しいんです。ですので、何かチグハグな感じがします。指導書は充実していると申し上げましたが、それはALTがいる場合のことで、いない場合は、担任の先生があれだけの英語量をこなすことは難しいと思います。

文部科学省は、これから始まる5、6年生の外国語活動は、けっして英語のスキルを伸ばすことが目的ではない、と言っています。育てるのは「コミュニケーション能力」だと。確かに週1回、この内容では言語スキルは育たないでしょう。しかし先生方の研修用に発音クリニックのCDが用意されたり、指導書にはたくさんのクラスルームイングリッシュが使われたり、英語のスキルを伸ばすような方向性が見て取れます。一方、以前はあんなに声高に言われていた「国際理解」はかなりトーンが落ちたように思います。今まで国際理解教育と英語活動をどうやったら結び付けられるのかと、現場の先生方は苦労されていましたが…その代わりに前面に出てきているのが「コミュニケーション能力」という言葉です。

そんなふうにいろいろ見ていきますと、ある部分では非常に難しくて、一方ある部分では時間を持て余してしまうだろうという内容が混在しているという印象です。ただ、こういうものが用意されたということは評価したいと思っています。

[1]『英語ノート 5年生 試作版』,『英語ノート 6年生 試作版』 [2]『英語ノート 指導資料 第5学年 試作版』,『英語ノート 指導資料 第6学年 試作版』

課題の多い中学校との連携

中学との連携ということでみますと、実は最近私がかかわっているある研究でショッキングな調査結果が出ました。それは、小学校の6年間、英語をやってきた中学1年生に対するインタビュー調査ですが、参加した子たちが「僕たちは小学校でゲームしかやらなかった。小学校でやった英語は何の役にも立たなかった」というようなことを言ったんです。それでは彼らが何をしたかったかというと「書く」ことだったんですね。おそらくその子たちは中学の英語の授業に悩み始めているのだと思います。彼らは、「これは大変だ、小学校のときにもっと書く練習をしていたら楽だったはずなんだ」と思っているのでしょう。ですが、文部科学省の指示は相変わらず、文字については本格的に教えることは避け、触る程度になっています。

今回5、6年生から必修となった背景には小中連携ということがありますが、それは全国で広がっているバラツキをなくさないと中学の先生たちが困ってしまうという現状があるからですね。その意味でこの『英語ノート』ができた意義は大きいのですが、それとは別にこうした文字の導入に関する問題、ALTの確保など、さまざまな問題が依然として残ります。

実際に教える際に、日本語をどの程度使ったらいいかという点についても現場の先生方からよく聞かれるのですが、私は日本のような環境では、特に高学年の場合は日本語を効果的に使うべきだと思います。ただ、絶対にしてはいけないのが、「訳」です。先生方は、訳さないと子どもたちがわからないと思い込んでしまっていますが、それは違います。私が教える場合は、日本語使用には大きく分けて2つの目的があります。1つは「ユーモア」。子どもたちの頭の中が英語でいっぱい、いっぱいになっているなと思ったら、日本語でユーモアを入れて、ほっと緩めてあげます。もう1つは英語という言語について説明する場合、または学習方法について指導するときに日本語を使います。子どもたち自身が自分がどのくらいわかっているかを確認することができるように、日本語を使います。

コミュニケーションとは本来「分かち合い」

小学校の外国語活動の目標に「コミュニケーション能力」ということが前面に出ていることは先にも申し上げましたが、そのコミュニケーションというのがどうも「発信」ということばかり取り上げられているような気がします。そうではなく、コミュニケーションというのは、コミュニティとかコミューンなどの言葉もあるように、「分かち合い」であり、相手と一緒につくりあげていくもののはずです。スキルとコミュニケーションとを分ける発想もおかしいと思いますね。

小学校の英語活動を見ていて残念だなと思うのは、結局は言わせたい文章がちょこちょことあって、それを発表させたい、という意図の元に教材がつくられていて、その中に、本当に子どもたちが自分たちの思いを伝えるような言葉はないんですね。大人はパーツを教えて、それを組み合わせればいいと思っている。でも、私たちが言葉を得てきた過程というのは、パーツではなく、まとまりの中で、その中でいろいろな言葉に触れながら少しずつ自分のものにしていったんです。生きた文脈のないところでは、言葉は絶対に育たない。それを忘れてはいけないと強く思います。

基本情報

小学校外国語活動の概要(文部科学省「新学習指導要領」より=2008年3月28日公示)

(1)目標「外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う。」

(2)小学5、6年生で年間各35時間実施する。2009年度から前倒し実施が可能で、2年間の移行措置を経て、2011年度から完全実施。

(3)『英語ノート 試作版』の概要=B5判80ページ、オールカラー、CD付き。5、6年生用。教師用の指導書『英語ノート 指導資料 第5学年 試作版』,『英語ノート 指導資料 第6学年 試作版』がある。今年度は全国581(2008/6/23,日本教育新聞)の拠点校に配布して使用してもらい、意見集約ののち改訂予定。共通教材として配布されているが、道徳の『心のノート』と同様、使用義務はない。

アレン玉井光江先生からのコメント

公立小学校でもやっと英語が本格的に始まるという気がします。新学習指導要領では、その目的はスキルの学習ではなく、コミュニケーション能力の育成であると書かれています。しかし、私が知る限りでは現場の動きは「英語教育」にむけて、変わりつつあると思います。現職教員への研修は続き、また小学校教員養成課程で「英語」を取り扱う大学も出てくる中、中学校以降の英語教育との連携も考えて、更なる研究と実践が望まれます。

また、子どもたちには「生きたことばとして」英語に触れてほしいと思います。言語を学習する上で「意味のある文脈」の中で言葉を提供することが、いかに大切なことなのかを改めて感じています。

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