11月23日、上智大学において、小学校英語必修化に向けたシンポジウムを開催いたしました。連休の中日にも関わらず、延べ200名強の方々にお越し頂きました。今回はシンポジウムの概要をご報告いたします。
1. 日時・場所
2008年11月23日(日・祝) 10:00〜16:40
上智大学 四谷キャンパス7号館14階 特別会議室
2. プログラム
第1部 シンポジウム1
「小学校英語の必修化の課題と対応―実態調査データから考える」
コーディネーター | 吉田研作(上智大学) |
調査概要発表 | Benesse教育研究開発センター |
パネリスト(発表順) | 松葉真佐江(栃木県足利市小学校) |
時田庄二(千葉県教育庁) | |
アレン玉井光江(千葉大学) |
第2部 基調講演
「東アジアの実践から考えるこれからの小学校英語教育」
バトラー後藤裕子(ペンシルバニア大学) |
第3部 シンポジウム2
「小学校英語必修化の先にあるもの―日本の英語教育が目指す姿とは」
コーディネーター | 吉田研作(上智大学) |
パネリスト(発表順) | アレン玉井光江(千葉大学) |
長沼君主(東京外国語大学) | |
田中茂範(慶應義塾大学) | |
金森強(松山大学) | |
根岸雅史(東京外国語大学) |
「小学校英語の必修化の課題と対応―実態調査データから考える」
… 教育委員会・小学校での取り組み状況から
11月23日、秋晴れのもと、「上智大学・ARCLE応用言語学シンポジウム2008−小学校英語必修化へのメッセージ」が開かれました。会場は小学校教員をはじめ、中高や大学の教員、教育委員会関係者、そして学生など、幅広い聴衆でほぼ満席となり、延べ200名強の方々にご参加いただきました。
まず全体のコーディネーター役の吉田研作先生が、最近授業を見学したいくつかの小学校や中学校、高等学校の英語活動や英語授業から、全般に小学校のほうがすぐれている点を披露。それは、中学・高校ではALT(外国語指導助手)がテープレコーダー的な役割しか果たしていない場合が多いのに対し、小学校では上手に担任とのティームティーチングができていること、また、小学校の先生が、多くのクラスルームイングリッシュを駆使して授業をしているのに対し、中学校では、それが日本語になってしまっていることなどでした。
次に、Benesse教育研究開発センターの吉池陽子研究員より、このシンポジウムに先立ち、同センターが2008年7月に行った「小学校英語・拠点校の取り組みに関する調査」1の結果を発表しました。拠点校とは、地域の小学校の推進役となるよう、全国の小学校の40校に1校の割合で、平成19年度に文部科学省から指定を受けた学校のことで、選定は各地方自治体の教育委員会があたっています。この拠点校には、平成20年度初めに、文部科学省作成の「英語ノート(試作版)」が配布されています。
その後、シンポジウムはパネリストの発表に移りました。まず小学校の現場からの報告として、栃木県足利市の小学校で教えている松葉真佐江先生が発表。平成15年度に「足利英会話教育特区」に認定された足利市は、独自に「英会話学習指導計画」を作成し、市内の全教員に配布しています。その「指導計画」に基づいた授業が一定の効果をあげていることから、松葉先生は「英語ノート」を授業で生かす機会は限られそうだが、朝自習の復習の時間に使えるのではないかということ、また教員は英語への苦手意識が強いが、ALTとの打ち合わせは毎時間英語で行っており、それが英語力アップにもつながっていることなどを報告しました。
続いての発表は、千葉県教育庁の時田庄二先生。管轄の南房総地域内では英語活動に関する学校間格差や学校内格差が広がっていること、ALTがいないと活動ができないこと、小学校と中学校の連携などの問題点を挙げながら、「最も大事だと思うのは、その学校が英語学習を通じて、どういう子どもたちを育てたいのかを明確にしておくことだ」と述べ、校長の考え方やリーダーシップがたいへん重要であることを付け加えました。
午前、最後の発表は千葉大学のアレン玉井光江先生。もともと「コミュニケーション」という言葉は「分かち合う」という意味であることを述べ、現状の小学校英語活動は子どもに発信させることばかりに目がいって、一方的なコミュニケーションになりがちであることを指摘。もっとインプットに力を入れるべきであること、子どもの言語習得のためには「意味のある文脈」を与えなければならないなどを述べました。
「東アジアの実践から考えるこれからの小学校英語教育」
… 圧倒的な予算と内容の韓国の教員研修事情
昼休みをはさんで第2部は、ペンシルバニア大学のバトラー後藤裕子先生による基調講演「東アジアの実践から考えるこれからの小学校英語教育」で幕を開けました。バトラー先生は、同大学で最近増えてきた韓国や台湾からの留学生たちがみな流暢な英語を話すことから、その学生たちの母国での初等中等教育段階での英語教育に関心を持ち、日本のそれとの比較をすることによって、日本の小学校英語教育がこれからどのような方向をめざし、どのような方法で進んでいくべきかを研究されています。
バトラー先生は冒頭で「日本の小学校英語活動は、もはや他国と比較をすること自体が難しいほど例外的なものになっている」と指摘したうえで、圧倒的な量を誇る韓国の教員研修の実態やその成果などを紹介。さらにこれからの日本の課題として、インプットの重視、教員研修への大がかりなサポートが必要であることなどを挙げ、しめくくりの「教育は長期戦であり、短期間に目に見える効果が出るものではないこと」「母語であっても子どもは言葉を100パーセントわかっているわけではない。ましてや外国語であるので、いつも全部をわかることを目標にする必要はない」などの指摘には、会場の聴衆も大きくうなずいていました。
「小学校英語必修化の先にあるもの―日本の英語教育が目指す姿とは」
… 今後の展望: いずれやってくるであろう教科化に備える
続く第3部はふたたびシンポジウム形式で、コーディネーターの吉田先生を中心に、アレン、長沼、田中、金森、根岸先生ら5人のパネリストがそれぞれのテーマに従って発表。まずアレン先生は「リテラシー教育の重要性」をテーマに、特に日本人の子どもにとっては文字が音声の習得の助けにもなることを強調、長沼先生は「小学校英語必修化において動機づけをどのように育成していくか」について、田中先生は「小学校英語教育の可能性」について、「既存の幼児英語教育の延長では高学年児童に適した活動にはならないこと、いかにオーセンティックな活動を小学校段階で引き起こせるかがカギである」ことを述べました。さらに金森先生は小学校英語の条件整備という観点から、「教員研修の現状」について文部科学省の来年度予算案を紹介しながら問題を指摘、最後に根岸先生が、「小中高大を貫くグランドデザイン」をテーマに、「小中高大社会人の英語教育を考えるときに、それぞれの英語教育と『接続』しか考えないが、英語教育のグランドデザインを議論し、合意した上で、それぞれを考えないと意味がない」と訴えました。
その後プログラムは会場を交えてのフロアディスカッションに移りました。会場からは「読み書き不可、テスト不可の条件下で、子どもに劣等感を持たせない指導とは?」(公立小教員)、「小中高大を一貫する英語教育のグランドデザインが必要なのはわかるが、小学校教育のグランドデザインの中に英語をどう位置づけるかという視点も必要では?」(私立小教員)などの質問や意見が寄せられました。
最後に吉田先生は「今後、小学校の英語は教科になる可能性が高いので、そのときに考えるのではなく、今から何をすべきか考えておかなければいけない」とシンポジウムを締めくくりました。
以上、今回はシンポジウムの概要を報告いたしました。それぞれのプログラムの詳細については、次回ご報告いたします。多数の皆様にご参加いただきまして本当にありがとうございました。(事務局)
1 | 「小学校英語・拠点校の取り組みに関する調査」調査結果データ集 https://berd.benesse.jp//berd/center/open/report/syoeigo_kyoten/2008/index.html |