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2012年度 第2回 研究会レポート
ARCLE研究会 「英語教育研究 次年度新課程を迎える高校英語、『授業を英語で』は何のためか。また解決すべき課題は何かを考える。」

2012年7月22日にARCLE研究会を開催しました。今年のARCLEは次年度より新課程を迎える高校英語をテーマに活動しています(12月にシンポジウムを開催予定です)。今回の研究会では、新課程での高校英語について、文部科学省 向後秀明教科調査官やすでに取り組みを進めている高等学校にヒアリングした結果および実践事例をもとに、次年度新課程を迎える高校英語において「授業を英語で」は何のために行い、また解決すべき課題は何かを議論しました。ここでは、その議論を踏まえた所感をご紹介します。


基本的に英語で授業をすることについて

慶應義塾大学 田中茂範

英語の授業は英語で行う。これは基本だろう。しかし、高校英語教育の文脈で見る限り、「英語で授業すること」が目的化されたかのような言説が目立つ。英語で授業することは、英語教育の手段であり、肝心なことは、それによって授業が活性化し、生徒の英語力の養成にプラスの効果をもたらすかどうかである。

来年度から新学習指導要領に基づく『コミュニケーション英語』がはじまる。問題は、どう教えるかである。従来型の指導法を英語に置き換えれば済むという話ではない。読解というより内容構成(content construction)が求められる。内容理解(reading comprehension)ではなく、生徒が自ら内容を構成するという積極的態度の実践が求められるのである。読んだテキストに対して口頭であるいは文章でリアクションを行うという Read and React の流れが工夫されなければならない。そこでは、テキストの中の論点について discussion & presentation を行うという授業が期待される。そして、語彙・文法指導を孤立させるのではなく、Language in Text という視座が必要となる。検定教科書の責任編者として、「どう教えるか」という HOW の問題にしっかりとコミットしていきたいと考えている。

Partial learningの可視化

青山学院大学 アレン玉井光江

英語で授業を進めるという今回の方針に対し、生徒や先生から「日本語で理解しないと(させないと)不安である」という声が出ていると聞きました。確かに英語の時間でも日本語を効果的に使用し、学習者の学びを促進させることは大切だと思います。ただ、英語を使うことを学ぶためには、どうしても「曖昧さや不明確さ」に耐える力が必要で、それを日本語で補うことはできません。ある時点で分からなかった、理解できなかった、でも続けていくうちに理解できた、という経験は英語だけではなく他の教科でもあると思います。知識とはall or nothingで身につくものではなく、少しずつ自分の中に構築されていくものだと思います。英語で授業を進めていくためには、先生も生徒もこのpartial learningを可視化し、納得していく技術を身につけることが必要なのかもしれません。

英語で授業をするために

東京外国語大学 根岸雅史

英語の授業を英語で行うためには、教師自身がある程度英語が使いこなせる必要があるのはもちろんだ。しかし、英語力以外にも乗り越えなければならないハードルがいくつもある。1つは「指示力」。教室での作業を生徒に指示する力である。2つめは「質問力」。教室での教師の英語使用は、日常の会話に比べ、明らかに「質問文」が多くなる。3つめは「コメント力」。現実の会話では相手に言わせっぱなしにすることはない。4つめは「関心力」。生徒のことや教材、世の中の出来事、など様々なことに関心を持つことが重要である、エトセトラ、エトセトラ。
ただ、最も重要なのは、英語での授業を始める勇気である。必要な力は後からついてくる。

教室内教師英語力can-doを考える

東京外国語大学 長沼君主

英語で授業をする力を測定するものさしとして、香港では4技能を測るテストに、授業観察によるClassroom Language Assessment(CLA)を加えた、Language Proficiency Assessment for English Language Teachers(LPATE)が開発されている。CLAでは、語彙、文法、発音といった言語面だけでなく、指示や説明、生徒とのインタラクションといった教授面も5段階で評価される。現在、科研において、LPATEと同様の枠組みによる教師自律性支援のための教室内教師英語Can-Do尺度を開発中であるが、下位尺度として、誘出 (Elicitation)、促進 (Facilitation)、明確化 (Clarification)、修正 (Recast)、意見 (Comment)、評価 (Assessment)などの機能別尺度も設けている。英語での授業にあたっては、学習者の発達段階をモニターし、自らの言語を調整し、必要に応じて足場を与えると同時に、教室全体を意識したフィードバックを与えるような教師発達を促す教師認知力の向上が必要とされるであろう。

まとめ

上智大学 吉田研作

高等学校で英語の授業は基本的に英語で行うことになる。もちろん、だからといって、全て英語でやれ、ということではない。ただ、一番大切なのは、言語はコミュニケーションの道具として使ってこそ身につくのであり、日本語中心の英語の授業では、英語の知識は得られても、コミュニケーション能力は身につかない。生徒にとって英語に接する場面は、殆どの場合、授業以外にはあまりないだろう。なのに、そこから英語を取ってしまったら、生徒はどこで英語を使えばよいのか、ということになる。教師の立場からは、授業のはじめと終わりを英語で行う。授業運営(classroom English)に関わる指示などを英語で行う。内容理解は、5W1Hを使ってできるだけ英語でやる。しかし、何よりも大切なのは、生徒にいかに英語を使う機会を多く与えるか、である。ペア・ワーク、グループ・ワークなどを通して生徒が英語でコミュニケーションする体験を積むことが最も大切だ、と言っても過言ではないのである。


1 平成22-24年度科学研究費補助金基盤研究(C)
日本人英語教員の英語力向上に役立つ「教室内英語力」の評価尺度の開発
課題番号:22530969
研究代表者:中田賀之
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