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今年度はARCLE理事によるコラムを掲載していきます。今回は、信州大学・酒井英樹先生です。

【コラム】デジタル教科書について(前編)


酒井英樹(信州大学学術研究院教授)


1. デジタル教科書って何?

 2024年度より、すべての小学校・中学校を対象に、小学校5年生から中学校3年生まで、外国語(英語)科の学習者用デジタル教科書が本格導入されることになりました。学習者用デジタル教科書とは、基本的には紙の教科書と同じ内容を学習者用端末で表示できるようにしたものです。紙の教科書の内容に加えて、文字の色やフォント等の変更や音声読み上げ(朗読、機械音声を問わない)、総ルビ表示等などを行うことができます。さらに、英語に関しては、音声読み上げにおいて、速度調整機能や読み上げ部分のハイライト表示を行うことが可能となっています。また、URLや QRコードによるリンクが埋め込まれていますので、比較的容易に参照先にアクセスすることができます。
 デジタル教科書とデジタル教材を区別することが重要です。デジタル教科書は、デジタル教材よりも、機能やコンテンツが制限されています。例えば、教科書の紙面に書かれていない補助的な活動、動画、解答例の提示などがあるのはデジタル教科書ではなく、デジタル教材になります。また、小学校英語でよく用いられている絵カードの移動・選択や、中学校英語でよく用いられているフラッシュカードによる単語練習活動なども、デジタル教科書ではなく、デジタル教材になります。ただ教科書会社によってはURLやQRコードによるリンクを経由してこれらの機能を活用できるものもあります。

2. 学習者デジタル教科書はどの程度活用されている?

 GIGAスクール構想の実現に伴い、近年、急速に教育のデジタル化が進んでいます。学習者用デジタル教科書の普及も同様に進んでいます。どの程度、学習者デジタル教科書が活用されているのでしょうか。
 まず、「令和2年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」(文部科学省)では、学校種別ごとの学校における主なICT環境の整備状況等の結果を示しています。令和2年度(2020年度)の学習者用デジタル教科書整備率は、小学校は6.4%(全18,977校)、中学校は5.9%(全9,209校)、高等学校は5.3%(全3,534校)でした。教科別の結果は不明ですが、令和2年度においては全体的に普及が進んでいなかったことがわかります。
 「小中高校の学習指導に関する調査2022」(ベネッセ教育総合研究所)は、2022年8月末から9月中旬にかけて、公立の小学校・中学校及び国公私立の高等学校の教員(それぞれ 2,884人、2,413人、3,153人)を対象に調査を行いました。学習者用デジタル教科書が導入されていると回答した割合は、小学校高学年が43.5%、中学校が38.2%、高等学校が8.7%でした。また、中学校と高等学校については、回答者が担当する教科別の結果も示しています。中学校では外国語科担当の回答者が学習者用デジタル教科書を導入していると回答する割合が最も高く 74.2%でした。高等学校では数学 (10.8%) に続いて外国語が高く10.6%でした。2022年度(令和4年度)では、学習者用デジタル教科書の普及率が高まり、特に中学校の外国語科において高くなったと示唆されます。

3. デジタル教科書をどう活用すればよい?

 デジタル教科書をどのように活用すればよいのでしょうか。学習指導要領の改訂によって、育成するべき資質・能力が「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱から整理されました。デジタル教科書だけに限らず、ICT機器の活用全般にいえることですが、3つの資質・能力を意識することが重要です。
 特に、「学びに向かう力、人間性等」に関しては、デジタル教科書のそれぞれの活動を、デジタルの特徴を活かして、どのように学ぶとよいのかという学び方を、児童や生徒に伝えていくことが重要だと思います。端末を家庭に持ち帰り、自学自習の際にデジタル教科書を使うことも多くなりますし、個別最適な学びの促進の観点から、自分に合った学び方で英語を学ぶことができる時間を設けることが試みられています。学習者用デジタル教科書をどのように活用したらよいのかという学び方を知ることによって、自分に合った活動を選ぶことができます。

*ここまでが前編です。後編に続きます。



 

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