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ARCLE理事によるコラム、第10回は、東海大学・長沼君主先生です。

【コラム】外国語の『見方・考え方』をあらためて考える
  −CAN-DOとCEFR/CV−


長沼 君主(東海大学)


 現行の学習指導要領では、各教科等の特質に応じて「見方・考え方」を働かせることで、「主体的・対話的で深い学び」を実現することを目指しています。外国語科の「見方・考え方」とは何でしょうか。CAN-DOやCEFR補遺版との関係を整理しながら、外国語の学びにおける「見方・考え方」について、あらためて考えてみます。

1. 学習到達目標としてのCAN-DOと資質・能力の3つの柱

 学習到達目標としてのCAN-DOを設定する際に、何を意識しているでしょうか。4技能型のコミュニケーションモデルから5領域型へと現在の学習指導要領で改訂されましたが、各技能で「できる」ことを記述しているでしょうか。また、5領域の各領域では、ア・イ・ウといった下位の目標が定められていますが、関連づけはされているでしょうか。CAN-DOはCEFRの行動指向(action-oriented)アプローチを参照して導入されましたが、その参照枠(framework)のレベルとの関連づけはどうでしょうか。そもそもとして、外国語の「見方・考え方」を踏まえて、育てたい児童や生徒の姿を思い描いて記述しているでしょうか。
 以下にCAN-DO設定の主な留意点のセルフチェックリストを書き出してみました。いくつあてはまるでしょうか。

  • CAN-DOを5領域のすべてで、学年を通してバランスよく設定しているか
  • CAN-DOを各領域の下位目標を整理して、一貫性を持たせて設定しているか
  • CAN-DOを各領域の下位目標を学習指導要領と関連づけて設定しているか
  • CAN-DOをCEFRに準拠してレベルを踏まえて(関連づけて)設定しているか
  • CAN-DOを「目的・場面・状況」を明確にして行動指向で設定しているか
  • CAN-DOを「見方・考え方」や育てたい児童・生徒を意識して設定しているか

 2013年3月に文部科学省より「各中・高等学校の外国語教育における「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標設定のための手引き(以下、手引き)」が出された際には、当時の2013年度の「英語教育実施状況調査」の結果を見ると、高校でのリストの設定率が33.9%、テスト等での把握率が15.8%、中学ではそれぞれ17.4%と11.6%でした。その翌年度から10年が経った2023年度の調査結果では、高校で94.8%と66.2%、中学で96.1%と80.7%となっており、高校においてパフォーマンス評価を用いてCAN-DOの達成状況を把握することでまだ課題は残るものの、各学校での活用が進んでいることがわかります。
 一方で、現行の学習指導要領のもう1つの特徴としては、3つの柱の資質・能力の育成と観点別学習状況の評価があります。国立教育政策研究所から出された「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料(以下、参考資料)」を見ると、「五つの領域別の目標の記述は,資質・能力の三つの柱を総合的に育成する観点から,各々を三つの柱に分けずに、一文ずつの能力記述文で示している」とあり、CAN-DOを各評価の観点で定める必要はないようですが、逆に言うと、3つの資質・能力は統合的に記述されているでしょうか。また、CAN-DOの到達状況の把握における評価ルーブリック(採点基準表)は3つの資質・能力を意識して作成されているでしょうか。それとも総合的な課題達成を評価の軸としているでしょうか。

2. 外国語における「見方・考え方」の2つの視点とCAN-DO

 「手引き」を紐解くと、前学習指導要領では当時の4観点のうち、「外国語表現の能力」と「外国語理解の能力」がCAN-DOと結びつけられており、純粋に技能ベースで作成されるイメージでした。その他の「コミュニケーションへの関心・意欲・態度」と「言語や文化についての知識・理解」の観点に関しては、必ずしもCAN-DOの評価規準を評価に反映させることは期待されていませんでした。現行の3観点の評価においてはと言うと、「参考資料」を見ると、「思考・判断・表現」と「主体的に学習に取り組む態度」は一体化して見取る一方で、「知識・技能」とは分けて観点別の評価を行う例が示されています。
 そこで気になるのは、大元のCAN-DO形式の学習到達目標に基づいた評価規準が、「思考・判断・表現」と「主体的に学習に取り組む態度」を反映しているかです。さらに言うと、学習到達目標としては、もう少し広く、資質・能力の「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力、人間性等」を統合的に捉えている必要があります。現行の学習指導要領に先立って、中央教育審議会で議論されていた「育成すべき資質・能力の三つの柱を踏まえた日本版カリキュラムデザインのための概念」の図(2015年11月20日付)では、現在の「学びに向かう力、人間性等」は、「主体性・多様性・協働性・学びに向かう力・人間性など」とされていました。主体性は観点別評価の文言から見て取れますが、多様性や協働性についてはどうでしょうか。
 3つの資質・能力を統合的に捉えたCAN-DOを考える上でヒントとなるのが、外国語における「見方・考え方」です。「見方・考え方」は各教科の特性を踏まえて育成することとされていますが、外国語によるコミュニケーションでは、「@外国語で表現し伝え合うため、外国語やその背景にある文化を、社会や世界、他者との関わりに着目して捉え(ること)」及び「Aコミュニケーションを行う目的や場面、状況等に応じて、情報を整理しながら考えなどを形成し、再構築すること」(丸数字及び丸カッコ内筆者)と説明されています。@が大きく「学びに向かう力、人間性等」に含まれる多様性や協働性などの相互文化的能力(intercultural competence)に関連しているのに対して、Aは大きく「思考力・判断力・表現力等」に含まれる思考を働かせながら課題を遂行する能力と関連していると捉えることができるでしょう(cf. 長沼, 2025)。

3. 思考を働かせながら課題を遂行する能力を反映したCAN-DOとCEFR/CV

 「思考・判断・表現」の観点別評価規準の設定にあたっては、「手引き」にもあるように、「目的等」に応じて「事柄・話題」についてコミュニケーションを行うことが重要となり、CEFRの行動指向アプローチにもあるように、学習者を「社会的行為者(social agent)」として位置づけて、社会の中で「使用する」ことを踏まえたCAN-DOとする必要があります。つまり、「目的・場面・状況」の理解と個人化による関与が欠かせず、文脈に「応じて」コミュニケーションを図り、課題遂行をできているかが評価の判断の鍵となるでしょう。「できる」型のCAN-DO設定においては、「目的・場面・状況」に応じて、思考を働かせながら課題遂行をする姿がまず中心にきます。
 ただし、「見方・考え方」を見ると、こうした課題遂行能力に加えて、さらに「情報を整理しながら考えなどを形成し、再構築すること」についても求められているようです。思考力は前学習指導要領の4観点においては、教科全体の観点としては示されていたものの、外国語ではパフォーマンス評価の推進の意図もあってか、「表現」と「理解」が2つに分けられ、観点としては前面に出ていませんでした。その意味では「思考力」は、今回の学習指導要領で新たにクローズアップされた概念となります。思考力などの認知能力を外国語能力の一部として評価すべきか、母語能力として別途評価すべきかについては古くから議論がありますが、母語と外国語で共通基盤に基づく統合的な育成においては、現行の学習指導要領の作成にあたり、中央教育審議会で議論がされていた「言語に関する資質・能力の要素(イメージ案)〜『国語科』及び『外国語科・外国語活動』を通じて育成すべき言語能力」の図(2016年1月13日付)が参考となるでしょう。
 図では「認知から思考へ」「思考から表現へ」といった循環型のモデルが示されており、「テクスト・情報の理解」から「文章や発話による表現」につながるプロセスが図示されています。つまり、インプットの理解がアウトプットの産出につながり、そうしたアウトプットが次のインプットともなると言えるでしょう。お互いの意見に耳を傾けたり、自分自身の発言を振り返って整理したりしながら、意見を再構築するような姿が想像されます。現行の学習指導要領に向けた議論の中で、アクティブラーニングのキーワードは「主体的・対話的で深い学び」へと置き換えられましたが、松下(2015)では、深い内化が深い外化を生み出し、それには深い関与が必要であることを、ディープ・アクティブラーニングとして示しています。課題遂行において、深い内容のインプットが深い内容のアウトプットにつながり、課題の「目的・場面・状況」への深い関与が必要不可欠であることがうかがえます。
 また、図ではその過程において、「認知(理解)から思考へ」の段階の吟味と解釈、「思考から表現へ」の段階の整理と再構成において、母語と外国語で共通する力として、「創造的思考(とそれを支える論理的思考)の側面」「感性・情緒の側面」「他者とのコミュニケーションの側面」の3つの側面を挙げています。外国語というと、3つ目のコミュニケーションの側面が意識されますが、創造的思考や感性・情緒についても、課題遂行上の下位目標として意識する必要がありそうです。別のコラム(長沼, 2024)において、「デジタル時代のコミュニケーション能力観」の議論をしましたが、とりわけ効率を重視した現代社会のマルチモダルなコミュニケーションにおいて、情報処理に追われて希薄となりがちな、メッセージの余剰性や情緒的な反応等について、母語と共通した基盤的な能力として、カリキュラムマネジメントを踏まえたさらなる議論が必要でしょう。
 CAN-DOを考える上ではCEFRにおける最新の動向も気になるところですが、近年補遺版(companion volume)として出されたCEFR/CV(2020)では、新たに設けられた「仲介(mediation)」能力の一部として、「概念の仲介(Mediating concepts)」の尺度が含められました。概念の仲介活動としては、「協働的なやり取りの促進」「協働的な意味の形成」「やり取りの管理」「概念的対話の促進」といった協働的な活動に関する能力が、CEFRのレベルごとに尺度として記述されています。対話は思考の道具でもあり、他者の外言としての発話が自己の中に内言として取り込まれ、自身の言葉として使うようになり、それとともに価値観も内化し、取り込まれていきます。概念の仲介CAN-DOでは、思考のプロセスを、言語能力の一部として、細分化したスキルとして記述をしています。協働的な課題達成場面において、思考力は協働力と切り離せず、こうした協働作業に参画したり、リードしたりする際に必要となる言語力の記述は、思考を働かせながら課題を遂行する能力をCAN-DOに反映する上で参考となるでしょう。

4. 多文化共生社会における相互文化的能力を反映したCAN-DOとCEFR/CV

 「学びに向かう力、人間性等」に関しては、例えば、中学校学習指導要領では、「外国語の背景にある文化に対する理解を深め、聞き手、読み手、話し手、書き手に配慮しながら、主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う」ことを目標としています。「見方・考え方」に「社会や世界、他者との関わりに着目して捉え」とあったように、文化に関する表層的な知識や理解だけでなく、文化を社会や他者との関わりの中で捉えた、深層的な価値観の理解や態度の育成が求められていることがうかがえます。思考力と言語力の関係と同様に、こうした価値観や態度に関わる相互文化的能力を言語力の一部として扱うかには様々な議論があり、CEFR(2001)でも複言語能力や複文化能力への言及のみで、具体的な能力記述はされていませんでしたが、CEFR/CVでは新たに「複言語・複文化的能力(plurilingual and pluricultural competence)」の能力記述尺度が設けられました。
 CEFRでは複言語複文化主義のもとで、言語や文化を個人の中で複数に息づくものとして捉え、部分的能力(partial competence)を肯定的に捉えていましたが、CEFR/CVでは、母語話者の記述がCAN-DOから削除され、言語や文化間に優劣はないことが強調されました。そうした前提のもとで、「複言語・複文化的能力」の能力記述尺度が新たに追加され、下位尺度として「複文化レパートリーの構築」「複言語的理解」「複言語レパートリーの構築」の3つの能力記述尺度が設けられています。また、「コミュニケーションの仲介」にも「複文化的空間の構築の促進」の活動があり,「受容」「発表」「やり取り」に加わった「仲介」のコミュニケーションモードの一環として記述されています。なお、仲介活動はCEFRでは主に通訳や翻訳、要約や言い換え・書き換えへの言及がされていたのみで、具体的な尺度はなかったものが、CEFR/CVで大幅に拡大されています。コミュニケーションの仲介は、友人や同僚に指示や説明等の内容を仲介して説明することから、第三者的に衝突の回避のために仲介に入ることまで多岐に渡り、仲介者として相互文化的な「橋渡し」の役割を担うことも期待されます。
 複言語・複文化的能力と関連して、CEFR/CVでは、言語のレベルとは独立した、より広義の相互文化的能力について、ヨーロッパ近代言語センター(ECML)のプロジェクトで開発されたFREPA(A Framework of Reference for Pluralistic Approaches to Languages and Cultures)(Candelier, et. Al., 2012)を参照情報として示してしています。FREPAは複言語能力や複文化能力を知識、態度、技能面から詳細に記述したチェックリストであり、個々の項目は、「必須(essential)」「重要(important)」「有用(useful)」の3つの段階に分類されます。その大本となったByram(1997, 2021)の「相互文化的コミュニケーション能力(intercultural communicative competence)」のモデルには、言語能力、社会言語能力、談話能力に加えて、相互文化的能力が含められており、下位要素(下記参照)として、知識、態度、技能の中心に、批判的文化的気づきを位置づけています。

  • 知識(Knowledge)[savoirs]
  • 態度(Attitudes)― 好奇心・開放性(curiosity/openness)[savoir-être]
  • 解釈・関連づけの技能(Skills of interpreting/relating)[savoir comprendre]
  • 発見・相互交流の技能(Skills of discovery/interaction)[savoir apprendre/faire]
  • 批判的文化的気づき(Critical cultural awareness)[savoir s’engager]

 相互文化的能力の評価の枠組みとしては、ヨーロッパの別のプロジェクトで開発されたIntercultural Competence Assessment (INCA)もあり(INCA Project, 2004)、

  • 開放性(Openness):他者性の尊重(respect for otherness)及び曖昧さへの耐性(tolerance of ambiguity)
  • 知識(Knowledge):知の発見(knowledge discovery)及び共感(empathy)
  • 適応性(Adaptability):行動の柔軟性(behavioural flexibility)コミュニケーションへの気づき(communicative awareness)

の6つの尺度で、3レベル(basic、intermediate、full)から能力を記述しています。具体的な評価方法としては、質問紙に基づいた自己評価のほか、シナリオ(動画や文書)への反応に基づいた評価、状況を設定したロールプレイによる評価が挙げられており、言語活動を考える上でこうした観点を設け、具体的な反応や行動を観察することが考えられます。
 学びに向かう力の育成には時間がかかり、1つの単元だけでなく、複数の単元にまたがった長期的な見取りをすることが重要であるとされています。主体的に学習に取り組む態度の評価においては、自己調整能学習が着目され、中間指導等を通して、パフォーマンスの改善が図られることが期待されていますが、現在、日本でも多文化共生社会の議論が進む中、主体的な学習能力や態度の育成だけでなく、相互文化的能力の視点がCAN-DOに反映され、協働的に課題を解決する力や態度が育成されることが望まれるようになるでしょう。

参考文献
Byram, M. (1997). Teaching and Assessing Intercultural Communicative Competence. Multilingual Matters.
Byram, M. (2021). Teaching and Assessing Intercultural Communicative Competence. Revisited. Multilingual Matters.
Candelier, M., Camilleri-Grima, A., Castellotti, V., de Pietro, J., L?rincz, I., Mei?ner, F., Noguerol, A., Schr?der-Sura. A. (2012). A Framework of Reference for Pluralistic Approaches to Languages and Cultures (FREPA): Competences and resources. Council of Europe.
Council of Europe (2001). Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment. Cambridge University Press.
Council of Europe (2020). Common European of reference for languages: Learning, teaching, assessment. Companion volume. Council of Europe.
INCA Project (2004). INCA Assessor Manual. INCA Project, Leonardo da Vinci Program.
長沼君主(2024).「CEFR/CVから見るデジタル時代のコミュニケーション能力観」ARCLE(ベネッセ総合教育研究所)[2024年5月31日掲載].
長沼君主・羽田あずさ・幡井理恵・狩野晶子・五十嵐浩子(2025).「改訂された小学校英語教科書をもとにあらためて3つの資質・能力の指導と評価を考える」『ELEC同友会英語教育学会研究紀要』第21号.
松下佳代(2015).『ディープ・アクティブラーニング』勁草書房.

 

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