≫ARCLEについて|Outline≫ECFとは|About ECF≫研究ノート・研究会レポート|Reports≫英語教育研究・調査|Data Base≫書籍・発刊物|Data Base

≫このページを印刷

ARCLE理事によるコラム、第11回は、玉川大学・工藤洋路先生です。

【コラム】英語教員養成課程の学生の教育実習から考えたこと
  −教育実習後の質問紙調査の結果を踏まえて−


工藤 洋路(玉川大学)


 より良い英語教育を実践するために、各自治体の教育委員会による研修や各地域の教科研究会、そして民間の団体による研究講座など、さまざまな研修会が行われています。このような現職の英語教員を対象とした研修会が充実することで、児童生徒に対する英語の指導も改善され、児童生徒の英語力の向上に繋がっていくことが期待されます。一方で、働き方改革が進められている現在において、現職教員に対する研修に十分な時間を割くのは非常に難しい状況があるのも事実です。したがって、大学での英語教員養成において、教員志望の学生の実践力を可能な限り高めていくことが必要になります。
 大学での教員養成においては、2018年度に実施された文部科学省による再課程認定(※)を受けた教職課程が、2019年度から新しい教職課程コアカリキュラムを踏まえたものとなり、そのカリキュラムの下、教員養成が進められてきました。筆者も大学で教員養成を長らく担当していますが、2018年当時、この再課程認定に向けて、カリキュラム全般の見直しや英語科指導法で扱う内容の整理などを行いました。また、カリキュラムを改訂しただけではなく、その成果検証のために、教育実習生を対象とした質問紙調査等を実施してきました。本稿では、再課程認定の前後に収集したデータを紹介し、教育実習における授業実践について考えたいと思います。
 ここで紹介するデータは、再課程認定前の2016年度に大学に入学をした学生27名(2016年度から2018年度に旧教職課程を履修、2019年度の4年次に中学校または高等学校で教育実習を実施)と認定後の2021年度に大学に入学した学生47名(2021年度から2023年度に再課程認定後の教職課程を履修、2024年度の4年次に中学校または高等学校で教育実習を実施)に対して、教育実習直後の振り返りとして実施した質問紙調査の結果です。この質問紙は30〜40程度の項目から構成されていますが、ここでは、両者で差が見られた項目の中の3項目について紹介します。この3つの項目は、次の表で示されている通りですが、数値は各項目の平均値です。この平均値は、「かなり当てはまる」「やや当てはまる」「あまり当てはまらない」「まったく当てはまらない」という4件法の回答を、順に4,3,2,1と数値化して計算したものです。

2019年度4年生 2024年度4年生
研究授業では、満足できる授業ができた。 2.74 3.15
授業全般では、自由に指導案を考えることができた。 2.85 3.40
授業全般では、コミュニケーション活動を十分に実施できた。 2.81 3.36

 1つ目の項目は「研究授業では、満足できる授業ができた」というもので、2019年度実習の学生については、2.74なので、「当てはまる」「当てはまらない」のちょうど真ん中より少し当てはまる方に平均が傾いている程度です。一方、2024年度実習の学生は、3.15となっているので、当てはまる度合いが高くなっています。満足度の違いを生み出す要因については、他の項目で差があるものと関連させて考察できる可能性があります。差があった項目として興味深いのが2つ目の「授業全般では、自由に指導案を考えることができた」です。2024年度の学生の方が、自由に指導案を考えることができたということなので、指導の方法や指導展開について具体的に指示された場合よりも、自分で考えて実践した方が、自分がより満足できる授業実践が可能であることが推察されます。もちろん、高い満足度が良い授業だったことを意味するわけではありません。逆に、スキルや知識がまだ十分ではない実習生が自由に授業を組み立てると授業がうまくいかない可能性もあります。そのリスクもある中で、教員不足が大きな問題となっている現在において、教育実習生が教職への意欲を失わないように、少なくとも一定程度は自由に授業を行えるように教育実習先の学校が配慮してくれたことが伺えます。指導を担当している学生の実習先の学校を訪問して管理職の先生方とお話をすると、最近は、実習生皆が、教員の仕事はとても大変だということをよく知っているので、まずは実習の期間で教員という職業の意義や楽しさを学んでもらっているといったことをおっしゃいます。自由に指導案を考えることができた割合が増えているのは、このような背景もあるのかもしれません。
 3つ目の「授業全般では、コミュニケーション活動を十分に実施できた」についても、2024年度の実習生の方が肯定的な回答が多く見られました。これについては複数の要因が考えられます。まずは、現行の学習指導要領(中学であれば2021年度開始、高校であれば2022年度開始)がスタートしてから数年が経ちました。中・高等学校の授業において、特に発表技能のスピーキングとライティングを扱う割合が増え、その指導法についてもノウハウが蓄積され、生徒も話したり書いたりすることに慣れている状況になっていることが考えられます。経験がない実習生でも、そうした活動に慣れている生徒たちなので、指導がしやすいことが推察されます。別の観点としては、再課程認定前よりも、認定後のカリキュラムでは(少なくとも私の現在の大学では)、コミュニケーション活動について理論と実践を学ぶ機会が増えています。以前は、模擬授業でも、新出の言語材料や本文の指導(特に導入)を多く実施していましたが、現在は、学習指導要領で言うところの言語活動を多く扱うようになりました。デジタル教科書を用いて言語活動を実施する模擬授業も必須にしています。言語活動を行う際には、教師は指示を出すだけでなく、生徒たちの様子をしっかり見てその後の指導に繋げるといったことも具体的に学生に教えています。これは再課程認定に伴うカリキュラム改訂の成果であると言えます。このように、大学の教員養成では、カリキュラムそれ自体も大事ですが、学習指導要領の内容の理解、中・高等学校の教室での指導の実態の把握、大学で行う模擬授業の内容、といったような様々な要因を連動させながら、教育実習やその後実際に教員になったときに必要なスキルや能力などを磨いていく必要があります。今後も、教員養成課程の学生の調査を継続し、その結果を活かして教員の育成に励みたいと思います。

(※)この再課程認定は、平成30年度(2018年度)4月1日の時点で認定を受けている教職課程を、平成31年度(2019年度)4月以降も継続して有効とするために、文部科学省の認定を受けるためのものであった。

 

↑ページトップへ