コーディネーター | : | 根岸 雅史 | (東京外国語大学) |
研究メンバー | : | 亘理 陽一 | (静岡大学) |
: | 石井 亨 | (東京都千代田区立九段中等教育学校) | |
: | 小川 登子 | (東京都立白鷗高等学校・附属中学校) | |
: | 奥住 桂 | (埼玉県宮代町立前原中学校) | |
: | 加藤 由美子 | (ベネッセ教育総合研究所) | |
: | 吉池 陽子 | (ベネッセ教育総合研究所) |
全国の高校入試分析の結果をご紹介し、テストデザインから考えることの大切さやテストの作り方の解説、分析の過程で見つけたよい高校入試問題と、それらに対応できる本質的な英語力をつけるための指導を提案し、フロアの先生方と意見交換を行いました。
発表の概要
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高校入試問題は、中学校の学習指導方法に強い影響を与える。都道府県によっても問題は異なり、中学校の英語教育は、各都道府県で出題される高校入試のあり方に強く規定される。そのため、各都道府県による入試のテストデザインがもし悪ければ、中学校の英語教育によくない波及効果が生じてしまう。それ故に、よいテストデザインで問題を設計していくことが大切なのである。加えて、高校入試には実質的にスピーキングテストがないことから、「話す」能力を高める指導が不足する。文部科学省の中学校学習指導要領(外国語)では、「聞く」「話す」「読む」「書く」の総合的な育成をうたっているが、実際には4技能のバランスを欠いていることが問題である。
<スライド1> 分析観点
私たち研究メンバーは、全国の公立高校入試問題を対象として、高校入試は「英語を使う力」を本当に問うているかを調査した。学習指導要領改訂ポイントを軸に、47都道府県の2003年と2013年の入試で、「英語を使う力」を問う問題が増えているか、「英語を使う力」問題について分析観点別に変化があるか、「英語を使う力」問題で求められる思考力の深さに質的な変化があるか、この3点について調査した(スライド1)。
<スライド2> 結果(1)
<スライド3> 結果(2)
<スライド4> 結果(3)
分析の結果、「英語を使う力」を問う問題数に2003年と2013年で大差はなく、2003年時点から8割以上が「英語を使う力」を問う問題であった(スライド2)。分析観点別に見ると、場面・状況設定のある問題が2割程度増えていた(スライド3)。受験者への近さでは、受験生が関与しない、第3者についての文章に関する問題が圧倒的多数であった(スライド4)。
「相談してきたアメリカ人の友人に対して答える」といった、受験者にとって、目的と意図や相手がはっきりしているような問題は少ないという結果も出た。 思考力の深さに質的変化があるかを調査するために、文字通りの意味の理解を問う問題を「事実確認問題」、直接的な形や単独の文では問われているものが表現されておらず、文の表す意図やその複数の意図をつなげて意味を考えることを必要とするような問題を「推論問題」と分類したところ、大半が「事実確認問題」で構成されており、2003年と2013年の間で大きな変化は見られなかった。
処理が求められる情報量に関して、大半の大問において与えられるテキストや図表等は1つであり、大きな経年変化はなかった。ただ、複数の情報を扱う問題の内容を詳しく見てみると、英文の量が増えたり、情報間の適切な関連づけの難度が上がったりといった変化があるような印象を受ける。今後も注視していくべきであろう。
技能に関しては、リスニング問題を単独で出すことが減り、聞いた後で読ませたり、聞いた後で書かせたりする技能統合問題が増えている印象を持ったが、量的に確認するには至っていない。解答形式にも大差はなかったが、文数ではなく、語数で指定する英文記述問題が、2003年の63問に対して2013年は101問となり、この10年間で増加していることが確認できた。
<スライド5>
<スライド6>
テストの見え方(テストデザイン)が重要なわけは、中学校の学習や指導に非常に大きな影響を及ぼすと考えられるからだ。高校入試は、大学入試の個別試験と比べてほとんどの生徒が無視することができず、インパクトが直接的なため、教師の指導と定期テスト作りに大きな影響を与える。例えばある県では、高校入試に自由作文が導入されたため、中学校のほとんどの先生が、定期試験に自由作文を入れるようになった。
また、新聞紙上で各県の入試問題を眺めると、「美しい」テストデザインが容易に想像されるものとそうではないものとが見て取れる。神奈川県では、「英語の知識」を問う問題と、「英語を使う力」を問う問題が、大問ごとに分かれている。各技能を独立して問うているため、見た目がすっきりしていて美しい(スライド5)。複数の技能を問う問題も、意識して入れられている。一方で、デザインが考えられていない場合(スライド6)は、1つの大問で「英語の知識」と「英語を使う力」の両方を問うていたり、配慮なしに複数の技能を問う問題が含まれていたりする。
<スライド7>
自分の経験から考えて、美しいテストデザインを作るためには、次の10項目(スライド7)の作業を順番に行うことがポイントだ。何をどう設計するか分からないまま、それぞれが勝手に問題を作ると、問題に統一感がなくなるため、@すぐに問題を作らず、Aテスト作りの手順をメンバー全員で俯瞰し、B全体の設計(テストデザイン)を決め、C何の技能をどういった形で問うかといったスペックを作成する。その上で、Dそれぞれのタイプのプロトタイプを作成し、Eプロトタイプに合意したら量産する。このときに、スペックに合わせて問題を作ることが重要で、Fスペックに不都合があれば、議論の上、必要であればスペックを修正する。Gスペックに合わない問題を勝手に作らない。H問題の検討はスペックを基に行うことを忘れてはいけない。I常にスペックを念頭に置き、スペックに合わせて問題を検討することが重要である。
テストスペックとは、英語でtest specificationsといって、テストをどう作るかを規定したもので、製品の設計図のようなものです。製品を作るときに設計図なしで作ることがないのと同じで、テストも設計図なしで作ることは本来あり得ません。テストスペックの中には、問題数・問題形式・採点方法・採点基準などの他に、タスクタイプ・テキストタイプ・使用語彙の規定なども含まれます。
私が選んだreadingの良問は、2013年の神奈川県の問題(スライド8、9)で、英文を読み、それぞれの問いに対する適切な回答を1つ選ぶ大問(スライド10)である。
<スライド8>
<スライド9>
<スライド10>
この問題は、観点が明確で、英文による場面設定まで含め、徹底的に読ませる問題となっている。注意書き、語注がなくシンプルな文になっており、かつ、2つの文章に書かれている内容(スライド8、9)が理解できていないと、解答を選べない選択問題となっている。
<スライド11>
中学生たちにとっての読解においては、既に確立された知識体系の中に新情報を取り入れる際に、いかに取り入れやすくしてあげられるかが指導において大事になる(スライド11)。そこで、英文読解に必要な構成要素(文法知識、語彙力、パラグラフ構造に関する知識、推論力、スキーマなど)のうち、私は、スキーマを応用し、生徒の背景知識を活用しながら、発問を工夫することを提案したい(スライド12)。
例えば、ただ問題を読んで答えさせるだけでなく、「あなただったら次はどのような展開になると思うか」と、テーマに従ってどんどん質問を投げ掛け、生徒に答えさせる(スライド13)。学習段階に合わせて、既出語彙、文型などを使わせる。このような工夫により、非常に能動的な読解活動が可能になる。
<スライド12>
<スライド13>
さらに分析的、かつ統合的な読解指導に持っていくために、教科書にあるタイトルから内容を予測させる、キーワードからブレインストーミングを行わせる、バラバラになったパラグラフを並び替えさせる、などの活動が非常に効果的だ。ただ読んでいくだけではなく、topic sentenceとsupporting sentenceとのつながりを学習段階に合わせて考えさせるということを取り入れていくと、非常に深く読む力がついてくる。
また、教科書だけにとどまらず、中学生向け推薦図書、英文雑誌などを提示し、読む(多読する)習慣をつけさせることも必要だと考えている。その際、生徒の知っている言語材料に合うものを教師がストックしておき、生徒が取り入れやすいものを授業で提示する機会を増やしていくことで、読むことの楽しさを教えられると思う。
私が選んだWritingの良問は、2013年の香川県の問題5で、2コママンガを見て、その内容を描写する問題である。
この問題では、共通に与えられた絵を描写するので、ある程度模範解答が存在し、採点の信頼性が高い。一方で和文英訳に比べて、絵を利用することで解答の自由度がある程度保証できる。中学校のゴール(学習指導要領)は、自分のこと、身の回りのことを表現できることだが、三人称での英語表現がもっとできるようにしてあげたいと思う。
書く量を文数ではなく語数で指定している点もよい。生徒は、語数で書かせたほうが一文単位で長い英文を書くので、いろいろな言い方を学ぶよい機会になると考えられる。高校入試では、Speakingの代わりにセリフのようなものを書かせるWriting問題が残念ながら多い。しかし、読解のついでにセリフを書かせるような問題設定ではなく、本来は、シンプルに場面を描写させたり、自己表現のような問題など、難易度もさまざまで、本当に書くことを目的とした問題にしなければならない。
Writingを効果的に指導するためには、3年間を見通した指導計画が必要になる(スライド14)。最終的には、3年生でマンガのストーリーを描写できることが目標で、1年生の教科書を素材にnarrativeに書き直せるようにしたい。そのために2年生の段階では、ストーリーは関係なく、絵の中の状況をとにかく描写することに専念する。1年生では、4コママンガにきちんとしたセリフが入れられれば十分だと考えている。
指導のポイントとして、既習表現を使用させるトピックをスパイラルに出していく。日記を書かせることもよいが、1年生で日記を書いたから終わりではなく、2年生なりの日記、3年生なりの日記と繰り返す。教科書本文を読解教材としてだけでなく、ライティングのための素材にしたり、模範解答にしたりして、自分以外のことについても書かせる。接続詞と代名詞を正しく使うことにより、中学生に求められる「まとまり」や「つながり」を表現できるようにすることが重要ではないか。
<スライド14>
私が選んだ良問は、2003年の長野県の問4で、南アフリカ共和国に住むフレッドさんが小学校時代に出会ったエイズ患者のクラスメート、ネルソンさんについて書かれた英文を読んで答える問題だ。
問いは「あなたがネルソンさんのクラスメートだとしたら、本文中の波線部に出てくるカードにどんなことを書きますか。ネルソンさんを励ます内容となるように、5語以上の英文を2つ用いて、下のバースデーカードを完成させなさい」というものである。パッセージの内容がよく、解答者が自分の立場を考えて答える設定になっているところもよかった。
ReadingからWritingの統合的な指導で大切なことは、中学校3年間を考えた上で、該当学年1年間の指導計画を立て、できれば年に2回か3回指導できる計画を立てるとよいだろう。ReadingからWritingへの統合的な指導に適する教材は、生徒の心が動かされるものがよい。手紙、物語、説明文、対話文など、自分で読んでみて生徒の心が動きそうだなと思うものを選んで使うことを心がけている。
教師が、既習の言語材料でいくつか例文を作成することも重要で、できるだけ生徒の目線で書いてみたい。例文を書いてみると、どういう目的でこの活動をするのか、誰に対して書かせるのか、どんな語彙や文構造が必要になってきそうなのか、どういう評価にするかが見えてくる。また、生徒にとって書きやすいかどうかが把握しやすくなる。
実際の授業に入る前には、この活動の狙いは何かを書き出したハンドアウトを生徒に配るように心掛けている。Writingに入ったときには、いきなり書かせるよりは、事前にブレインストーミングを行ったほうが、生徒にとっては書きやすいと思う。
現在、中学3年生を指導しているが、ペアワークで自分が書いた文を紹介し合い、その先に清書として書く作業を入れてみたところ、ある生徒は、書くことができた文の数が4文から6文、8文まで広げられるようになった。Speaking活動をどこかのステージで入れることは、生徒にとってよいことだと考えている。
最初から英語で書かせることも大切で、はじめに日本語で書かせてしまうと難しくなってしまうので、生徒には「書きたい英語と書ける英語は違うから書ける英語でいきましょう」と指導している。Writing中に行う机間指導で、多くの生徒に共通する間違いがピックアップできたら、Writingの途中であっても1回ストップさせて、クラス指導を入れることも、時間の節約ができてよい。仲間からフィードバックする機会を与えると、英文の内容がだんだん良くなってくる。Writingで書かせたら1回集めてみて、よい作品を提示、再度書き直させた清書の中からよいものをまた生徒に選ばせる、という活動を入れている。よいものは、本人の了解を得て、下級生の手本としても利用している。