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第5回研究会レポート
詳細:「上智大学・ARCLE応用言語学シンポジウム2008−小学校英語必修化へのメッセージ」



第1部 シンポジウム1
小学校英語の必修化の課題と対応―実態調査データから考える
コーディネーター 吉田研作(上智大学)
調査概要発表 Benesse教育研究開発センター
パネリスト(発表順) 松葉真佐江(足利市立北郷小学校)
時田庄二(千葉県教育庁南房総教育事務所)
アレン玉井光江(千葉大学)


シンポジウム1では、Benesse教育研究開発センターが実施した調査結果の発表の後、3人のパネリストからの発表と、ディスカッションがありました。これらの発表内容と、それを踏まえた吉田研作先生のまとめについて、ご紹介します。

小学校英語・拠点校の取り組みに関する調査
Benesse教育研究開発センター 吉池陽子

Benesse教育研究開発センターでは、小学校英語への取り組み状況を把握するため、全国の拠点校1および管轄の教育委員会に向けてアンケート調査2を実施しました。

まずは学校調査の結果です。英語活動の「目標」として、ほとんどの拠点校が「積極的にコミュニケーションを取ろうとする態度の育成」を挙げています。「教える人」については、拠点校になってからは学級担任とALTとのティームティーチングが中心になる割合が増え、同時に、日本人英語教師や日本人、外国人のボランティアなど多様な人材がかかわるようになってきたことがわかりました。

教材については、4割前後が学校独自で制作したものを中心に使っていて、文部科学省が作成した共通教材『英語ノート(試作版)』を、もっともよく使っているのは4分の1程度でした。『英語ノート』の印象としては、約3分の2の先生が「良い」と感じていますが、『英語ノート』の「難易度」などについては課題を感じているようです。また、英語活動に対する子どもや保護者の反応については、ほとんどの学校の先生はおおむね「良い」と感じているようです。

次に教育委員会調査の結果です。拠点校を管轄する都道府県・政令指定都市の教育委員会が、一番「十分でない」と感じているのは「中学校との接続、連携」でした。教育委員会からの支援では「人や研修に関する支援」がもっとも多く、小学校の先生方が課題として一番に挙げている「カリキュラム」は、それほど上位には挙がっていませんでした。今後の課題で一番に挙げられていたのは「教員の研修」で、次が「中学との接続、連携」でした。


1 拠点校
地域の小学校の推進役となるよう、全国の小学校の40校に1校の割合で、平成19年度に文部科学省から指定を受けた学校。拠点校の選定は教育委員会が行い、拠点校には平成20年度初めに『英語ノート(試作版)』が配布されている。
2 小学校英語・拠点校の取り組みに関する調査
https://berd.benesse.jp//berd/center/open/report/syoeigo_kyoten/2008/index.html

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担任とALTとの明確な役割分担で効果的な指導
松葉真佐江(足利市立北郷小学校)

足利市は平成15年に認定を受け、「足利英会話教育特区」として取り組んできました。平成17年度からは市内22の小学校全校で英会話学習を行っています。目標は「自分の考えを相手に伝えたり、相手の意見を正しく聞いたりという、英語によるコミュニケーションの基礎的な能力を培う」ことです。現在、1・2年生が年間10時間、3年生から6年生までが年間35時間実施しており、さらに朝学習の時間を利用して復習を行うことで、約5時間をプラスしています。

取り組みの特徴として、まず、足利市立教育研究所が作成した「英会話学習指導計画」とその活用が挙げられます。これは吉田研作先生ご指導のもと、市内の小中学校の教員が作成したもので、1年生から6年生まで学年ごとにどの時期に何を教えるか、が示されています。市内のすべての小学校担任に配布されており、学校や子どもたちの実態に応じてアレンジを加えながら使用されています。平成23年度から外国語活動が必修となった後も、この「指導計画」を元にした取り組みは行われていく予定です。

次に、すべての英会話学習の授業を、担任とALTとのティームティーチングで行っているということです。子どもたちのことをよく知っている担任と、子どもたちを英語の世界へ上手に招き入れてくれるALTとが、お互いの特性を生かし、役割分担を明確にすることで、効果的な指導が行われていると思います。

課題としては、やはり担任の英語力の問題があります。しかし、担任が使う英語は、中学校で習った範囲内で十分であり、あとは恥ずかしがらずに堂々と使うことではないかと思います。問題なのは、授業前のALTとの打ち合わせです。お互いに英語力、日本語力が足りないので、実際にはジェスチャーや絵を使ったりして何とかコミュニケーションを図っています。

最後に『英語ノート』についてですが、これを授業で使うのは少々難しいこともあり、今のところ、朝学習の復習で利用するのが、一番効果的ではないかと考えています。まずは、来年度の移行措置期間にそのように実施してみて、その結果をまた次の年度に生かしていく、という柔軟な対応で取り組んでいきたいと思っています。

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中学校でどう発展させるかがカギ
時田庄二(千葉県教育庁南房総教育事務所)

私の担当する南房総地区には、8つの市と1つの町に合計で140校の小学校があります。昨年度の統計では、140校、すべての学校で、小学校英語活動を実施しています。ただし時間数は高学年でも年間10時間以下が6割です。

小学校の先生方にいつもお願いしているのは「外国語活動を通じて、その学校がどういう子どもを育てたいのかを明確にする」ということです。それがないと、同じ学校の中でも、先生によってやり方が異なってしまいます。その意味でも校長先生のリーダーシップは非常に重要です。カリキュラムに関しては、初めて教える先生でも、経験ある先生と同じような授業ができるようなものを作っていただきたいと思います。

今後の課題の1つは教員研修です。文部科学省が示している30時間の研修には、英語力をつけるための研修は含まれていません。英語力に不安を感じる先生も多いと思いますが、小学校の先生は最初の「一歩」が出ると、進歩が非常に速いです。これが小学校の先生の力だろうと思います。ですから、ある程度開き直って、公開授業のような形でまず1時間でも授業をやってみて、早くその一歩を踏み出してみることをお勧めします。

もう1つが小中連携です。小学校で一生懸命やっても、中学校でその発展性がなければ意味がありません。中学校の教員は小学校の実態をあまり知らないのが現状です。このような状態ですと、中学校では小学校の復習になってしまう恐れがありますが、中学校では活用させて定着させるということが求められます。このことは、その先の高校にもつながっていくことだと思いますので、「小中連携」というよりも「小学校の発展性」という言葉を使いたいと思います。その点については全国の全中学校で、考えていかなければならないと思います。

南房総管内に英語活動の拠点校は3校ありますが、そこでの実践を見ていて感じるのは、やはり英語は小学生によくなじむものだということです。私は元々中学校の英語教員ですので、特に強く感じます。ですから、小学校での外国語活動を必修化することは、今後の英語教育の充実のために有効な方法であると確信しています。

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英語はこれからの子どもに必須のもの
アレン玉井光江(千葉大学)

小学校の新学習指導要領のうち外国語活動の部分には、2,000字あまりの文章に、「コミュニケーション」という言葉が19回出てきます。コミュニケーションという言葉は、元々ラテン語の「Communicatus」であり、「分かち合う」という意味です。これを昔の日本人は「以心伝心」という形で行っていましたが、今やコミュニティの崩壊に伴って消えつつあるように思います。

このコミュニケーションというものをもう一度考え直していただきたいのですが、今行われている英語活動は発信が中心です。英語活動に限らず、社会全般がそうです。しかし、子どもの言語習得過程を考えると、まず、ひたすら聞いて自分の中に音を「溜める」時期があります。今、小学校で行われている英語活動を見ると、インプットはアウトプットさせるためだけに行われているような気がします。けれども、もう少し子どもたちの中に英語を「溜める」ことを考えていかなければならないと思います。

それから、文脈のないところで言葉は育たない、ということです。また、子どもは言葉を育てるために体を動かし、五感を働かせます。それはとても大切なことです。ここが大人の英語学習とまったく違うところです。文脈という観点からいうと、最初から切れ切れの「刺身」を出してしまうのではなく、まず「1匹のマグロ」を見せる。全部子どもたちに見せて「これが刺身になる」と示すことが必要だと思います。まずは「英語って、こういうものだよ」と見せる必要があるのです。

最近、韓国で英語教育の実態を見まして、日本に戻って1週間落ち込みました。10年違うと思っていたら、もう20年の差がついていました。日本では教師の研修が30時間とありましたが、韓国では最低でも120時間、中には海外研修を含む1,100時間の研修を受けた先生もいました。このような状態では日本と韓国を比較すること自体が無理です。

でも、落ち込んでばかりもいられません。なぜなら、もはや英語は特別なものでもぜいたくなものでもないからです。情報化の進んだ現代では、いかに有益な情報を得られるかどうかが、これからの子どもたちの将来を決めていく大きなカギとなります。その意味において、多くの情報で使用される言語である英語を、子どもたちに与えてあげることは必須であり、道具として使えるようにしてあげなくてはいけないと強く思います。

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まとめ:小学生と音声中心に楽しくコミュニケーション、文字で定着を
吉田研作(上智大学)

先生方のお話を伺っていて、大事だと思ったことがいくつかあります。まず、小学校の先生方ご自身が、ALTと話す機会を持とうと努力することです。それから自信がなくても教え始めてみれば、小学校の先生方の英語力は、大変速く伸びるということ。私もそう思います。小学生は大変反応がよいので、中学生・高校生に比べれば本当に授業がしやすい。そして、そのときに必要なのは、けっして高いレベルの英語力ではなく、中学で習った英語で十分であるということです。

もう1つ大事なのは、コミュニケーションは何も言葉だけで行うものではないということ。場面を提示したり、表情やジェスチャーといった、ノンバーバルなものも駆使したりしながら、成立させるのがコミュニケーションですね。さらには文字の利用です。学習指導要領を見ても、音声言語を補助する形で、文字を提示することは問題ないのです。ですから音声言語でコミュニケーションすることは大事ですが、それを定着させるために文字に触れることは、否定されているわけではありませんので、上手に使って定着を図ることができると思います。

アレン玉井光江先生からのコメント

シンポジウム1は有意義なものであった。現場では、多くの小学校教員が「英語活動」に熱心に取り組んでおられる。私は、楽しい英語活動が行われるための条件を考えてみた。まずは、全校が一致団結して動くこと。これには校長の英語活動を推進しようとする強い思いとそのリーダーシップが不可欠であろう。またALTをはじめ、外部からの支援を受けるための「予算」も必要である。そして何より、現場の教員を助けるために量・質ともに充実した研修が行われることを望みたい。

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