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目薬をさす | [ ] some eye drops in (one's eyes) |
切手を貼る | [ ] a stamp on the envelope |
傘を電車に置いてくる | [ ] an umbrella in the train |
店にブーツを置く | [ ] boots |
答えは…コラムの中で。
第3回コラムでは英語でもっともよく使われる前置詞、ofを取り扱いました。今回は基本動詞の1つputを取り上げたいと思います。おそらく、生徒のほとんどがputとくれば「置く」を連想するはずです。しかし、「put = 置く」という理解の仕方には2つの大きな問題があります。
僕は、英語の授業で、大学生に「目薬をさす」をどう英語で表現するかという質問をほぼ毎年しています。学生の中には英語にかなり自信を持っている人もいますが、ほとんど「正解」が出てくることはありません。そこで、「目薬をさす」は put some eye drops in (one's eyes) とput を使って表現すればよいと解説すると、あっけにとられた顔をして「えっ?put でいいんですか?」と応答します。「put = 置く」からは「目薬をさす」で put を使うということはなかなか想像できないからです。
実際に put は、以下のように、多様な使われ方をする動詞です。多くの学習者は put にはたくさんの意味があり、その複数の意味が辞書に載っていると考えてしまいます。そして、put のいろいろな「意味」を覚えようとしますが、このようなやり方ではput の感覚をつかむことはできず、put の意味が結局はわからないことになってしまいます。
<putを使った表現例> | |
・put a book on the shelf | 本を棚に置く |
・put a letter in the envelope | 封筒に手紙を入れる |
・put a stamp on the envelope | 封筒に切手を貼る |
・put a tax on luxury articles | 高級品に税金を課す |
・put the novel into French | 小説をフランス語に翻訳する |
このことからわかることは、「put = 置く」と限定的にとらえてしまうと「put」の意味を使いきれるようにはなりません。これが第一の問題です。
もう1つ、「置く」はいつでもput で表現できるわけではない、という問題があります。「秘書を置くことにしよう」「この店にはブーツを置いていますか」「傘を電車に置いてきた」などの「置く」を英語で表現する課題を考えるとすぐにわかるでしょう。ちなみに「秘書を置く」は staff one's secretary、「店にブーツを置く」は carry (have) boots、「傘を電車に置いてくる」はleave an umbrella in the train といい、put で表現することはできません。つまり、「置く」は put の最も基本的な意味だと考えられていますが、put の使用範囲と「置く」の使用範囲が同じというわけではないということです。すると、put の意味をどう理解すればよいかという問題が出てきます。
では put の意味をどう理解すればよいでしょうか。putのような基本動詞の意味は「多様で複雑」なのではなく、「単純で曖昧」です。曖昧性があるからこそ、いろいろな状況で使うことができる、という発想への切り替えが大切です。先ほどputの多様な使われ方の例をご紹介しましたが、put に「課す(impose)」や「翻訳する(translate)」という意味があるわけではありません。put にはput の本来の意味があります。それがput のコアです。
【コア】何かをどこかに位置させる(プットする)
put のコア(本質的な意味)は「何かをどこかに位置させる」くらいの感覚でとらえておくといいですね。実際は、「位置させる」というのも厳密にいえば不正確であるため「プットする」というカタカナ表現を使うのがよいと思います。
そして「何をどこにプットするか」によってさまざまな意味合いが生まれることを理解し、「課す」「翻訳する」といった「意味合い」はput の意味というよりput が使用される状況を説明したものと理解しておくとよいと思います。
<感覚をつかみましょう> | |
・put a stamp on the envelope | 「切手を封筒の表面にプットする」 →「切手を貼る」 |
・put a letter in the envelope | 「封筒の中に手紙をプットする」 →「手紙を入れる」 |
・Let me put the cat out. | 「猫を外にプットする」 →「猫を外に出す」 |
・Put your hand under the tap. | 「手を蛇口の下にプットする」 →「手を蛇口の下にかざす」 |
・put eye drops in one's eyes | 「目薬を目の中にプットする」 →「目薬をさす」 |
putを「何かをどこかに位置させる」と理解しても set との違いがはっきりしません。そこでsetのコアを示し、put のコアと対比的な関係に置くと、双方の動詞の感覚がはっきりしてきます。set のコアは「定められた位置に何かをすえる」というものです。put との違いを図式的に示せば、以下のようになります。
【putのコア】何かをどこかに位置させる
(プットする)
【setのコア】定められた位置に何かをすえる
put のコアは単独でみると曖昧ですが、set のように意味的に近い動詞と比較することで両者の差異がわかり、その差異化を通して、それぞれの動詞のコアがより機能的なものになっていくのです。ぼくは、長年、基本動詞の習得やその意味研究を続けていますが、put の本来の感覚を獲得することによってはじめて、putという語を使い切ることができるようになるのだと確信しております。
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