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前回「英語のつまづきは、アルファベットから!?」というタイトルで3回にわたりアルファベットの指導の大切さについて書きました。今回のシリーズでは、アルファベットの文字認識が終わった段階から中学校でのリーディング指導が始まる前に小学校で何ができるのかについて数回にわたり書きます。まず1回目は、リーディング指導に不可欠である音韻認識能力について説明したいと思います。
言語はまずは音声により表現され、それからずいぶん遅れて一部の言語集団で書き言語が発達しました。現在でも世界中の言語の全てに書き言語があるわけではありません。音を文字で表すとき問題になるのは、どのような単位で音を区切り、文字に対応させるかということです。例えば「ほ・ん」という単語を2つの音で区切ると、このように仮名で書くことができますが、「ほん」と音節で区切ると「本」と1つの漢字で表すことになります。さらに音の最も小さな単位である音素に対応させると、「hon」と3つの文字になります。話し言葉をどのような音単位で分けて、文字を対応させるのか、言語によって異なりますが(窪薗&本間、2002)、それを理解することが文字言語を習得するうえで大切な力になります。
つまり書き言語を身につけるには、話されている言葉の音構造を知る力が必要になりますが、この力のことを音韻認識能力といいます。例えば、日本語の基本的な音の単位はモーラ 1 ですが、仮名を学ぶ前に「まり」は2つの音でできていて、最初の音は「ま」、最後の音は「り」、なのでしりとりは「り」から始まる単語を探す。そして最初の「ま」を「く」に変えると「くり」になるというような言葉の音構造を知っている必要があります。phonological awareness(音韻認識能力)というのは言葉の意味ではなく、その音の構造について理解できる力です。もしも子どもが「ほり」という言葉の意味を知らないとしても、この言葉が「まり」と同じように2つの音でできており、そして最初の音を「ま」に変えると「まり」になると理解できる力が必要です。英語は、1つの文字に基本的には1つの音素が対応しています。したがって音素レベルでの同様の力「音素認識能力」が必要となります。
音韻(音素)認識能力とリーディング能力の発達について、多くの研究から音韻(音素)認識能力は、単語認識力、またはリーディング能力の発達を確実に予測すると報告されています(まとめとして Snow, Burns, & Griffin, など)。つまり、単語や文を読み始めるには、アルファベットの文字学習と同様に、音韻(音素)認識能力を高めることが不可欠ということです。
次回は、この大切な音韻(音素)認識能力を育てるための教室活動を紹介したいと思います。
参考文献
窪薗晴夫, 本間猛(2002)『音節とモーラ』研究社出版
Snow, C. E., Burns, M. S. & Griffin, P. (1998). Preventing Reading Difficulties in Young Children, National Academy of Sciences-National Research Council
注1 モーラ:音韻論上の単位。1子音音素と1短母音音素をあわせたものと等しい長さの音素結合。拍。(広辞苑)
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